2018年5月17日

タクシー運転手

1980年5月、タクシー運転手のマンソプ(ソン・ガンホ)は、10万ウォンという大金につられてドイツ人記者のピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せて光州に向かう。戒厳令下の光州へ続く道は通行禁止となっていたが、機転を利かせて検問をくぐり抜け、2人は光州へ。そこでデモに参加している大学生のジェシク(リュ・ジュニョル)と出会い、ピーターは撮影をはじめる。マンソプはソウルで留守番をしている11歳の娘が気になり、不穏な空気に包まれた光州を早く立ち去ろうとするが……。

 民主化を求める光州市民を戒厳軍が武力で鎮圧して多数の死傷者を出した「光州事件」の実話をもとにした作品。韓国では1,200万人を動員する大ヒットを記録しました。
 序盤で突然、東京タワーが映って驚きましたが、ピーターは日本駐在の記者だったんですね。そこで隣国との連絡が途絶えたという話を耳にして――おそらくは功名心から――身分を偽って韓国に入国します。あまりの惨状に茫然としていたところマンソプに叱咤されてハッとする場面があるので、使命感は最初からあったわけではなく、次第に生まれていったんじゃないでしょうか。
 丸腰の市民に銃弾を浴びせるなんていくら軍人でも躊躇しないのかと思いますが、そうした描写はいっさいありません。まったくもって情け容赦ない。映画をわかりやすくするための演出かと思いきや――まだまだ上映中なのでネタバレを避けるため詳しくは書きませんが――終盤のある人物の行動によって、すべての軍人がそうだったわけではないのだろうということがわかります。
 また、うまいというかズルいというか終盤にはカーチェイスまであって、実はここが泣ける場面になってます。このへんの史実と娯楽のバランスをどう受け止めるかによって好き嫌いは分かれるでしょう。「あざとい」と見る向きもあるかもしれません。が、チョ・ヨンピルのヒット曲「おかっぱ頭」の軽快な音楽にはじまって、ソン・ガンホのコミカルなキャラクターに笑いつつ、いつの間にか過酷な現実を突きつけられている、見事な作品だと思いました。
 ところで、マンソプが別れ際の車中で目に留めたマッチ箱にある「キム・サボク」を偽名として書きますが、それがモデルとなった実在の人物の名前ですね。事件の4年後に他界していたと息子さんが映画公開後に明かしたそうです。一方のユルゲン・ヒンツペーター(通称ピーター)は映画の完成も見ず2016年に他界。残念ながら2人が再会することは叶いませんでした。

2018年5月16日

風と共に去りぬ!?

朝鮮時代後期、右議政の庶子であるドンム(チャ・テヒョン)は気楽な日々を過ごしていたが、ある日突然、身に覚えのない反逆罪で捕らえられてしまった。採氷を取り締まる生真面目なトンス(オ・ジホ)も左議政の反感を買って牢にやって来る。その後、ドンムは放免されるが、代わりに父が流刑に処された。すべては氷の独占を企む左議政(ナム・ギョンウプ)の策略なのだった。ドンムはチョ一族への復讐を誓い、氷の強奪を計画。トンスをはじめ、あらゆる分野の玄人を集めて作戦を開始する。

 安心して楽しめるチャ・テヒョン作品ですが、この作品の場合はチャ・テヒョンのキャラというよりも、個性的な仲間たちのアンサンブルが楽しいところ。耳が遠い爆弾エキスパートのテヒョン(シン・ジョングン)、変装の達人で毎度必ず「誰だよっ!」と言われるジェジュン(ソン・ジョンホ)らがひっきりなしに笑わせてくれます。ソクチャン役のコ・チャンソクとチョングン役のチョン・ボグンは『ハロー!?ゴースト』でもチャ・テヒョンと共演してますね。そこにオ・ジホとは意外な気もしますが、その好対照なところがおもしろい結果を生みました。
 細かいところにツッコミを入れるのは野暮というもので、何も考えずに楽しみたい、痛快な娯楽作。イ・サンをはじめ、ペク・トンスやチョン・ヤギョンなど、それぞれが主人公のドラマも制作されている実在の人物が多数登場するのもおもしろいところです。ちなみに、最後の最後にソン・ジュンギが特別出演。チャ・テヒョンやコ・チャンソクのいるBlossom Entertainmentに移籍したからですね。

2018年5月15日

5人の海兵隊員

ドクス(シン・ヨンギュン)は、父のオ中佐(キム・スンホ)が大隊長をつとめる部隊に小隊長として赴任した。オ中佐は息子を歓迎するが、ドクスは幼い頃からいつも兄ばかり溺愛してきた父に複雑な気持ちを抱いている。やがて部隊の末っ子としてかわいがられていたヨンギュ(ナム・ヤンイル)が偵察中に命を落とし、ドクスら5人の海兵隊員は奇襲作戦の特攻隊に志願する。

 韓国文化院で行われる韓国映画の企画上映会、2018年4~5月は「1950~60年代に製作された名作韓国映画特集」。そこで初めてこの作品を観ました。
 キム・ギドク(『悪い男』などの監督とは同名異人)の監督デビュー作で、1962年の第1回大鐘賞で新人賞を受賞した作品。さすがに古い感じは否めませんが、朝鮮戦争に父と子のメロドラマをからめているのが興味深いところ。なんとそこには出生の秘密があるんです! 唐突な展開で、韓流ドラマのようでした。
 今のベテラン俳優の父親が何人も出演しているのも興味深いですね。チェ・ムリョンはチェ・ミンスの、パク・ノシクはパク・チュンギュの、トッコ・ソン はトッコ・ヨンジェの、キム・スンホはキム・ヒラの父。ちなみに、ユン・イルボンはオム・テウンの義父にあたります。
 ジュハン役を演じているフライボーイは、ずいぶん奇抜な名前ですが、声帯模写で人気を集めたコメディアンなのだそうです。その後、クリスチャンになって芸能界を引退し、アメリカで神学を勉強して牧師になったとか。

韓国映像資料院のYouTubeチャンネルで全編視聴可。英語および韓国語の字幕アリ。
https://www.youtube.com/watch?v=gUbG3wQ9GtQ

2018年5月6日

メロホリック

冴えない大学生のウノ(チョン・ユノ)は、ある日突然、恋人から「女心がわかってない」と別れを告げられた。その夜、何者かに殴られたうえに雷に打たれて病院へ。目覚めると“右手で触れると女性の本音がわかる”という不思議な能力を身につけていた。3年後、兵役を終えて復学したウノはキャンパスの人気者だが、女性の知りたくない本音まで知ってしまうため、恋愛ができない。ところが、ウノの能力が通用しない女性と出会う。彼女は、3年前に姿を消した恋人を忘れられないイェリ(キョン・スジン)。しかし、彼女にはまったく正反対のジュリという人格があって……。

 たんなるラブコメディかと思いきや、サスペンス要素も強く、特に後半はミステリタッチで物語が展開します。全10話と短めですし、気軽に楽しめる作品かと。純朴なイェリと挑発的なジュリという2つの人格を演じたキョン・スジンが抜群にうまいですね。LABOUMのソルビンがミンジョン役で出演してますが、Girl's Dayのヘリにそっくりすぎて驚きました。

2018年5月5日

サニー 永遠の仲間たち

夫と娘とともに何不自由ない生活を送るナミ(ユ・ホジョン)は、ある日、母の入院先で高校時代に親友だったチュナ(チン・ヒギョン)と再会する。癌で余命2ヶ月を宣告されている彼女の最後の願いは、かつての仲よしグループ“サニー”のみんなに会うこと。ナミはメンバーを捜しながら青春時代を思い出す。25年前、全羅道の筏橋からソウルの女子高に転校してきたナミ(シム・ウンギョン)は、姐御肌のチュナ(カン・ソラ)らと親しくなるが、文化祭の日に起きたある事件をきっかけに離れ離れになってしまったのだった……。

 ひさしぶりに観ましたが、何度でも泣けます。というか、かえって先の展開がわかるので序盤から目頭が熱くなってしまいます。エンドロールを見ると6人のその後までわかって大団円なのですが、欲をいえば、サンミ(チョン・ウヒ)にも救いがあってほしかったような。シンナーでラリって事件を起こした彼女ですが、本当は仲間になりたかった、かわいそうな娘でもあるわけで。

 タイトルにもなっているボニーMの「Sunny」をはじめ、1980年代のヒット曲が物語を盛り上げます。乱闘シーンで流れるのはJOYの「Touch by Touch」、ジュノ(キム・シフ)がヘッドフォンでナミに聴かせるのはリチャード・サンダーソンが歌う映画『ラ・ブーム』(80)の主題歌「Reality」(邦題は「愛のファンタジー」)でした。昼休みの校内放送でかかるレコードは、シンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun」と台詞にありますが、実際はGlamaramaのカヴァーヴァージョンのようです。オープニングとエンディングに流れる「Time After Time」もオリジナルのシンディ・ローパーではなくタック&パティ。これは権利上の問題でしょうか。ジャンミの家でみんなが踊りまくるのは1984年のナミの「빙글빙글(ピングルピングル)」。転校してきた主人公のナミにチュナが「歌手と同じ?」と言いますが、そのハ・チュナも同姓同名の歌手がいます。おたがい歌手と同じ名前だね、という親近感もあったんでしょうね。ちなみに、この曲は「ミッドナイト・フォーカス」のタイトルで日本盤まで出てたりします(詳しくはこちら)。

 ところで、2018年に日本で『SUNNY 強い気持ち・強い愛』としてリメイクされるとのこと。監督が大根仁だから大丈夫でしょうか。

2018年5月4日

僕の彼女を知らないとスパイ

不運続きで三浪中のゴボン(コン・ユ)は、ある日、ハンバーガーショップで働くヒョジン(キム・ジョンファ)に心を奪われた。やがて2人きりで会うことになるが、実は彼女には秘密があった。ヒョジンというのは偽名で、ある任務のため韓国に潜入した北朝鮮の工作員なのだ……。

 垢抜けないコン・ユが今となっては貴重ですね。もう14年前の作品。ひと目惚れした彼女が北朝鮮の工作員だったというドタバタはおもしろいのですが、テンポがいまひとつで、どうにも古臭さは否めません。監督はこれ一本しか撮っていないようです。ちなみに、DVD(現在は廃盤)は聞いたことのないメーカーからで、画面サイズが小さいうえに画質もひどく、日本語字幕にはいくつも誤訳が……。とはいえ、南北問題や兵役をからめ、韓国ならではラブコメディとして興味深い作品です。
 ナム・サンミがハンバーガーショップで働いている役どころですが、実際に漢陽大学前のロッテリアでアルバイト中に“オルチャン(=美少女)”として注目されたのは有名な話(劇中ではバーガーキング)。そんなところを踏まえた配役なんでしょうか。また、当時はまったく気に留めてませんでしたが、もうひとりの同僚役はユ・イニョンなんですね。太腿をチラ見せしながら蹴りを入れたりします。

2018年5月3日

ゴー・バック夫婦

ジンジュ(チャン・ナラ)は育児に、バンド(ソン・ホジュン)は仕事に疲れはて、恋愛の末に結婚した夫婦はすれ違いの日々を送っていた。ある日、バンドの浮気を誤解したジンジュは不満を爆発させ、ついに2人は離婚。その夜、それぞれ結婚指輪を投げ捨てた……。翌朝、2人が目覚めると、そこは18年前! 20歳の大学生になっていた。今度こそいい相手と結ばれようと、バンドは初恋の相手だったソヨン(コ・ボギョル)に接近し、ジンジュは先輩のナムギル(チャン・ギヨン)と距離を縮めていくが……。

 途中から、いったいどうやって2人が現代に戻るのか、気になります。“逆夢オチ”のようなトリッキーな結末を予想していたので、わりとひねりのないラストが物足りない感じもしますが、笑って泣ける、いい作品でした。タイトルの「고백」は“Go Back”と“告白”をかけてるわけですね。ジンジュ(チャン・ナラ)とバンド(ソン・ホジュン)、どちらかが悪かったというわけではなく、2人とも次第にそのことに気づいていきます。ジンジュが路上で酔って毒づくサラリーマンを見ていて、バンドの悲痛な叫びにハッと気づく場面など、泣けました。いつも懸命だったバンドが切なすぎます。
 一見お調子者のようでいて誠実なバンド役を演じたソン・ホジュンは好感度が高いですね。そして、38歳の主婦にも20歳の大学生にも違和感のないチャン・ナラはやっぱりすごい。おバカっぷりに笑わされるジェウ(ホ・ジョンミン)とドクチェ(イ・イギョン)、男っぽいけど実は愛らしいボルム(ハン・ボルム)など、まわりの友人たちも魅力的。ジンジュの母、バンドにとっての義母に扮したキム・ミギョンもさすがです。
 男子がH.O.Tを意識した髪型をしたり、合コン相手に「スジに似てる」と言うとmiss Aのスジではなくカン・スジだと思われたり、1999年というタイムスリップ先の時代設定も興味深いものでした。観にいく映画は『シュリ』。まわりが号泣するなか、もう何度も観てるジンジュは平然としてます(笑)。

2018年5月2日

ワンダフル・ラブ~愛の改造計画~

金融業で成功を収めたボッキ(ペ・ジョンオク)は女手ひとつで3人の子を育ててきたが、甘やかされた三姉弟は問題を起こしてばかりいる。ある日、長女のヨンチェ(チョン・ユミ)はファッションショーで騒ぎを起こしてフンナム(チョン・ギョウン)から損害賠償を求められ、長男のヨンス(キム・ジソク)は恋人から妊娠を告げられ、末っ子のヨンジュン(パク・ボゴム)はクラブで散財……。認知症と診断されたボッキは残された日々で3人を更生しようと決意する。

 韓国で視聴率が振るわなかったせいか、なかなか日本で放送されませんでしたが、1年半遅れでMnetが放送。さらにパク・ポゴムのブレイクを受けてのことでしょう、とっくにDVDも出てるのに、2017年9月からKNTVでも放送されました。
 後半になって出生の秘密が明かされるなど、韓国ドラマ定番のストーリー展開。ですが、頼りなかった長男ヨンス(キム・ジソク)がダジョン(イ・チョンア)を守るために成長していく姿にグッときたり、けっこう泣かされました。次男ヨンジュン(パク・ポゴム)のロマンスは微笑ましく、ドタバタに笑って切なさに泣けるホームドラマです。「ワンダフル・ママ」という原題が「ワンダフル・ラブ」となりましたが、たしかに母親の話が中心ではあるものの、もっと広く捉えられるものですから、珍しく的を射た邦題といえますね。

 ところで最終話、結婚式を終えたボッキとボムソがワインで乾杯し、ボムソが「きみの好きだった曲をかけよう」と流したのはナナ・ムスクーリの「Try To Remember」(1969年)ですが、日本ではインスト曲に差し替えられてました。「歌詞が好きだった」という理由でかける曲なのに……。