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2009年12月22日

玄海灘は語らず

 キム・ギヨン監督によって映画化された『玄海灘は知っている』の続編にあたる小説です。第2部『玄海灘は語らず』、第3部『勝者と敗者』で"阿魯雲伝"は完結するのですが、それらを統合してこの邦訳『玄海灘は語らず』はできてます。『勝者と敗者』の3分の1弱が削られてるそうですが、著者自身が大幅に手を入れ、章を改めるなどしてるとのことなので、抄訳ではなく独立した作品といえるかもしれません。
 前作、軍から脱走して秀子とともに彦根を目指した阿魯雲。その後、同胞と出会って何とか生き抜いてきた阿魯雲でしたが、すれ違いから秀子と離ればなれになってしまい、ついに脱走兵として捕らえられてしまいます。そして、軍法会議にかけられるのを待つばかりの阿魯雲でしたが、ついに日本が敗戦の日を迎えます。しかし、そこでめでたしめでたしというわけではなく、阿魯雲は大きな決断を迫られるのでした......。
 単純なハッピーエンドではありませんが、希望に満ちた結末です。いや、もちろんその後の苦労も歴史的に考えると想像はできるわけですけど、少なくともラストの主人公たちはとても前向きです。2段組で440ページという大著。ずっしりと読みごたえのある作品でした。

玄海灘は語らず――続阿魯雲伝
韓雲史/村松豊功・訳/角川書店/1993年/3,398円

 

2009年12月20日

Re: 玄海灘

 映画『玄海灘は知っている』の原作――というか、1960年にラジオ・ドラマとして発表され、翌年に映画化および小説化とのことなので、厳密には原作小説とはいえないのかもしれません。1968年には連続ドラマ化もされた模様。
 著者はハン・ウンサ(韓雲史)。学徒出陣や日本体験をもとにドラマを手がけてきた脚本家です。自伝的な大河小説で、主人公の阿魯雲(ア・ロウン)という名前は『阿Q正伝』の"阿"、魯迅"魯"、自分の名前から"雲"を取ってつけられ、aloneにかけてるとのこと。その後、第2部『玄海灘は語らず』、第3部『勝者と敗者』と続き、完結したのは1963年3月です。
 この邦訳『玄海灘は知っている』はすでに絶版のようで、Amazonのマーケットプレイスではけっこうなコレクター価格がついてました。

 映画とは異なる箇所が多く見られます。365ページ(しかも2段組)という長編ですから、117分に収めた映画とは違っていて当然ですけどね。
 特にラスト・シーン。まるでゾンビのような主人公の復活シーンは観客に笑いをもたらしましたが、原作では軍から脱走し、秀子とともに彦根を目指すところで終わります。あれほど衝(笑?)撃的な展開はありません。
 また、キャラクター設定も映画では簡略化されてるようで、とりわけ古参兵の森は描写が異なります。映画では単純な憎ったらしい悪役ですが、原作ではより奥行きのある人物として描かれてました。もちろんイヤな奴には違いないのですが、阿魯雲が命を救ってしまったり情けをかけたりしてしまうような、ある意味、人間臭いキャラクターです。
 昭和18年に実施された「半島人学徒特別志願兵制」で半ば強制的に徴兵された多くの朝鮮人青年たち。彼らの知られざる実態が描かれてます。日本軍の面々も画一的な描写にとどまらず、いろいろな人がいたことが(当たり前ですけど)わかります。とても読みごたえのある作品でした。

玄海灘は知っている――阿魯雲伝
韓雲史/村松豊功・訳/角川書店/1992年/2,548円

【関連記事】
自由コラム・グループ 玄海灘は知っている
http://www.freecolumn.co.kr/news/articleView.html?idxno=971
月刊アリラン「日本における韓国近代史の現場」第84回
http://www.arirang21.com/news/quickViewArticleView.html?idxno=64
Iza【外信コラム】ソウルからヨボセヨ 合掌・韓雲史さん
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/gaishin/290182/

 

2009年10月2日

イ・ムニョル『ひとの息子』

『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』って、トラン・アン・ユン監督がイ・ムニョル(이문열/李文烈)の小説『ひとの息子』からモチーフを得たのだとか。
 イ・ムニョルは1948年5月18日で、80年代の韓国を代表する作家。『我らの歪んだ英雄』が映画化されてますね。『ひとの息子』(原題『사람의 아들』)は1979年の作品。キリスト教のからんだサスペンス仕立ての物語らしく、文学賞「今日の作家賞」を受賞しているそうです。1996年に集英社から邦訳が出ていて、Amazonにも扱いがあるのですが、けっこう高くてコレクター価格がついてたりも......。うーん、図書館で借りて読むことにするかな。




 ついでに見つけた勉強になるウェブサイト。更新されなくなってずいぶん経ってるようですが、邦訳リストとして参考になります。

東アジアの現代文学
http://www.asahi-net.or.jp/~LT3M-OOB/a_lit/