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2015年4月15日

『ひきずる映画―ポストカタストロフ時代の想像力』

“ひきずる映画”といわれても最初はピンときませんが、「われわれの心に突き刺さったり、心を抉られたり、身をゆさぶったりする映画」(「はじめに」より)だそうです。「虚構を突き破り、フィクションを超えて、世界の在り方に迫りながら、現在の新たな解釈を鋭く投げかけてくる」ような、エッジの効いた作品ですね。
 韓国映画は3作品。第1章「リアルと世界」に〈古典〉としてキム・ギヨン監督の『下女』(石坂健治)、第2章「想定外!」にキム・ギドク監督の『悪い男』(石原陽一郎)、第3章「意味の意味、その先へ」にホン・サンス監督の『アバンチュールはパリで』(石坂健治)が取り上げられています。それぞれを「ひきずるポイント」「技法のポイント」から読み解き、糸のイメージが拡大していく『下女』など、深読みの仕方をわかりやすく解説しています。

『ひきずる映画―ポストカタストロフ時代の想像力』
編:村山匡一郎+編集部
著:村山匡一郎、北小路隆志、三浦哲哉、石原陽一郎、石坂健治、杉原賢彦
フィルムアート社/2,100円(本体価格)+税/2011年8月22日発売
http://www.filmart.co.jp/new/post_151.php

2015年4月11日

中村とうよう『地球が回る音』

 中村とうよう(元「ミュージック・マガジン」「レコード・コレクターズ」編集長)の1960年代から30年間の音楽エッセイ集。584ページという大著で、ワールドミュージックを中心に語られていますが、韓国音楽が出てくるわけではありません。が、やや関連する記述として、第10章「美空ひばりと都はるみ」に1990年4月の「ミュージック・マガジン」の記事に加筆した「歌手復帰を宣言した都はるみ」があります。
 ティナ・ターナーの公演を観にいった話をするなかで、「サムルノリが、腕に神様が降りるとか言ってるらしいけど、ティナ・ターナーもそれと同じで、ほとんど神わざみたいな感じを受けました」と、やや唐突に出てきます。
 また、その直後には、歌手活動をやめていた5年間にどんなレコードを聴いていたかという質問に「いちばん興味をもったのは浪曲」と答えるのですが、何通りもある声の出し方を駆使してひとつのものを語る浪曲が「韓国のパンソリとも似てるような気がします」と加えています。
 その後、「歌いたい場所」の話になります。
――ぼくは、ひょっとしたら38度線の上とか、あっち方面じゃないかと勝手に想像したんですけど…。韓国のことって、活字になる形でしゃべるのはまずいですか。 
 まだ自分でよくわかってないところがありますので、いまのところは不用意な発言をするわけにいかないと思うんです。もうちょっと勉強してからお話しさせてください。
 いささか唐突に感じました。調べてみると、父親が在日コリアンらしいですが、当時、そのような発言があったりしたのでしょうか。1984年の引退後、1987年にキム・ヨンジャのプロデュースを担当しているので、少なからず韓国との関係はあるようですが。

中村とうよう『地球が回る音』
筑摩書房/1991年/4,660円(本体価格)

2014年6月18日

湯浅学『音山』

「幻の名盤解放同盟」でおなじみの湯浅学による音楽評論集。前作『音海――夜明けの音盤ガイド』(ブルース・インターアクションズ/1997年)ではシン・ジュンヒョンに「人情20選」でちらっと触れてるだけでしたが、こちらではボブ・ディランやジョン・レノンに混じって11枚の韓国CDが掲載されています。
 といっても、メジャーどころはソテジ・ワ・アイドゥルとイ・パクサ(メジャーといっていいのか……)くらいで、さすがキワモノというか、もうすでに(日本でも韓国でも)手に入らなそうなラインナップばかりです。主にポンチャック。「大韓人の洋楽理解の基本がわかるホイホイロック術によるトンマなインスト」というマンモス・オブ・インヴェンション『ポンチャック文明ディスコ』、「ジャケットと中身の落差が最大の鑑賞点」というマンモス楽団『天然観光ポンチャック』などなど……どれも知らない! こんなの出してたPヴァイン http://p-vine.jp/ もすごい! 中古CD屋でも見かけたことのないものばかりですが、ぜひとも入手したいところです。
 あと、青江三奈の「大田ブルース」(1984年)を「これまでに聴いた日本語による韓国歌謡カヴァーの最高傑作」と絶賛してたりします。

湯浅学『音山――呼べば応える音盤の木霊書』
水声社/1999年

【掲載されている韓国CD評】
李博士 『第1集 新風アッパー・ポンチャック』(Pヴァイン/PCD 3443)1989年
李博士 『第2集 新風アッパー・ポンチャック』(Pヴァイン/PCD 3444)1989年
イ・ベクマン『指笛青空ポンチャック』(Pヴァイン/PCD 3449)1995年
オ・ウンジュ『運転手さん気をつけてポンチャック』(Pヴァイン/PCD 3451)1995年
キム・ミョンジュン『アッサ大爆発ディスコ』(Pヴァイン/PCD 3446)1995年
ソテジ・ワ・アイドゥル IV(Bando/BDCD028)1995年
ヂン・ドヒョン『キャバレー青春スター』(Pヴァイン/PCD 3445)1990年ごろ
ヒョンエ『爆発花火娘』(Pヴァイン/PCD 3451)
マンモス・オブ・インヴェンション『ポンチャック文明ディスコ』(Pヴァイン/PCD 3448)
マンモス楽団『天然観光ポンチャック』(Pヴァイン/PCD 3450)90年ぐらい
マンモス楽団『ムード・キャバレー・ポンチャック』(Pヴァイン/PCD 3447)92年ぐらい


2013年6月22日

藤田麗子『おいしいソウルをめぐる旅』

 タイトルどおり“おいしいソウルをめぐる旅”に出たくなる一冊。有名店や流行の最先端を紹介するのではなく、歴史を感じられる老舗の味、地元で愛される市場を中心に紹介しています。食文化の歴史から、食にまつわる諺、食の歳時記、ご当地グルメなどなど、韓国料理にまつわる豆知識も豊富に掲載。なかでも「インスタントラーメンのはなし」がおもしろい。日本の明星食品が技術提供をして生まれたとは! 流行の変遷がわかるインスタントラーメンの歴史年表も興味深いところです。
 すべてが観光で訪れるような場所というわけではなく、「旅で使える韓国語」のコーナーに飲食店で使えるフレーズがそれほど多くなかったり、初心者にはこれ一冊でというわけにはいかないかもしれません。でも、韓国旅行がしたくなること必至。次にソウルに行くときは、広蔵市場の「麻薬キムパッ」は絶対に食べようと思います。あらかじめ購入した葉銭を使って加盟店で好きな惣菜を盛ってもらう通仁市場の「お弁当カフェ」も体験してみたいし、日本でも減りつつある昔ながらの喫茶店「学林」にも行ってみたい! 色鮮やかな韓国料理の写真を眺めるだけでも楽しいけれど、やっぱり現地に行きたくなりますね。

藤田麗子『おいしいソウルをめぐる旅』
キネマ旬報社/1,300円+税/2013年6月4日発売
http://www.kinejun.com/

【目次】
Part 1 伝統の味を求めて
ソルロンタン/ビビンバ/牛サムギョプ/キムチチゲ/カンジャンケジャン/納豆チゲ/プルコギ/純豆腐チゲ/サムゲタン
Part 2 ソウルの市場めぐり
広蔵市場/東大門市場 焼き魚通り/孔徳市場/通仁市場/鷺梁津水産市場
Part 3 韓国だけの麺料理
ビビン冷麺/カルジェビ/あさりカルグッス/チャジャン麺/ちゃんぽん
Part 4 おやつの時間
コーヒーとチーズケーキ/あずきのデザート/なべ入りかき氷とアイス紅柿/トッポッキ/韓国のお餅/コンビニお菓子&街角おやつ

2011年6月27日

藤田麗子・崔漢勝『韓国の歴史をめぐる旅 ソウル編』

 韓国には十数回も行ってるのに、そういえば観光らしい観光をしたことがありません。そんなうちに南大門(=崇礼門)は焼失してしまい......。次にソウルに行くときにはこの本を参考にいくつか巡ってみようと思ってます。
「朝鮮王朝500年の歴史をもつ街、ソウルを歩こう!」をテーマに、韓国在住の日本人女性が史跡や韓国時代劇のロケ地を紹介。特に、思悼世子が閉じ込められた米櫃が置かれた(「イ・サン」)とされる昌慶宮や、粛宗(「トンイ」)が東屋を建てた昌徳宮など、観たことのあるドラマにゆかりの地を訪ねてみたいところです。そのほかにも「宮廷女官チャングムの誓い」「風の絵師」「トキメキ☆成均館スキャンダル」など作品別インデックスがあります。
 かわいらしいイラストが豊富で、親しみやすい旅行ガイドです。巻末にはエリアごとの地図があるものの、本文ではイラストマップを掲載。近道が書いてあったり、たんなる情報の寄せ集めではなく、実際に自分の足を使ってつくられたことがわかります。「朝鮮王朝にまつわる豆知識」や「駅名から知るソウルの歴史」といった読み物もけっしておカタいものではなく、知的好奇心を刺激してくれるはず。ところどころで紹介するおみやげなんかも目線がイイんです。ハングルのクリップとか、韓国のデザイン文具や雑貨に興味があるので、ぜひチェックしてみたいと思います。
 意外におもしろかったのが「切手で楽しむ韓国の歴史」。小さな古切手屋に勇気を出して入ってみたところ、怪訝そうな店主が初恋の思い出を日本語で語りだす......。まぁ、本筋とはまったく関係ないわけですが、もっと詳しく読みたくなったほどでした。これも地道な取材の成果でしょう。
 お仕着せの堅苦しい"旅行"ではなく、気楽な"散歩"を楽しむための一冊。ぜひソウル編以外も出してもらいたいものです。

藤田麗子・崔漢勝『韓国の歴史をめぐる旅 ソウル編』
キネマ旬報社/1,365円/2011年3月11日発売
http://www.kinejun.com/

【目次】
PART1 朝鮮王朝の王宮を訪ねて
景福宮/昌徳宮/昌慶宮/徳寿宮/慶熙宮/雲[山見]宮
PART2 歴史の舞台、鍾路を歩く
鍾路/仁寺洞ギル/普信閣/曹渓寺/光化門広場
PART3 朝鮮王が眠る場所
宗廟/宣陵・靖陵/成均館
PART4 韓屋めぐりでタイムトリップ
北村韓屋村/南山ゴル韓屋村
PART5 幻の都、水原へ
イ・サンの理想都市 水原華城へ/華城行宮
PART6 王様のデザートを味わう
王様の食事とデザートの話/韓国の伝統菓子
PART7 博物館で歴史を学ぶ
国立古宮博物館/国立民俗博物館/国立子ども博物館/国立中央博物館/ホ・ジュン博物館/ロッテワールド民俗博物館/ソウル歴史博物館



2011年4月6日

西森路代『K-POPがアジアを制覇する』

 アジアを席捲するK-POPアイドルが、どのように世に送り出されてきたのか、日本のアイドルとはどこが違うのか――その躍進の背景を読み解き、さらに日本の問題点を指摘する一冊です。
 まずは、韓流的なイメージからの脱却に成功して「礎」となった東方神起、「楽曲やパフォーマンスがよければ、多くのファンに受け入れられるということを証明」して「始祖」となったBIGBANGら、J-POPシーンにおける韓国勢の代表を紹介します。少女時代やKARAなど、いわゆるガールズグループの攻勢については「攻めのセクシーさには慣れていない」日本人男性にとって"ちょうどいいセクシーさ"がポイントになっていると分析。「女性であっても何かありがたく(いや、むしろ同性だからこそありがたく)」といった女性ならではの視点がおもしろいです。女性の視点という意味では、男女の"萌え"の違いも勉強になります。女性は「アイドル本人の気持ち」を知りたいのであって誰かのフィルターを通したアイドル論はいらない、人と人との関係性に"萌え"を感じるためグループ間のメンバー同士がじゃれあう姿に弱い、イケメンが好きというよりもイケメンのもつ個性を見つけ出すことが好き......などなど。また、事務所ごとに異なるアイドルたちの特色を分類している点もK-POP初心者にはわかりやすいでしょう。多くの人が真似できるキャッチーでユニークなダンスが重要で、フック(一度聞いたら忘れられないような強いメロディ、リズム)の多用が、現在の日本で大衆に歌を浸透させる「タイアップ」という手法と対峙するものであるという指摘も興味深いところです。
 本書では、翻って日本のアイドル文化にも踏み込んでいきます。深読みあってこそ、ハイコンテクストな(=物語を共有している)日本では「育てる」「未成熟」などが重要なキーワード。韓国では練習や努力が(アイドルになるための)手段や通過点であるのに対し、日本ではそれ自体が目的、つまり見せるもの。そして自分の外側に"何か"を求める「バージョンアップ」という考え方をする韓国、自分の中に"何か"を求める「自分磨き」に没頭する日本、という考え方にも納得できます。「隙」があることが日本のアイドルには必須という点や「部活感覚」という表現にも、なるほど、と頷いてしまいました。アイドルも日本では"ガラパゴス化"してますね。
 第3章〈アイドルでわかる日韓文化〉の後半から第4章〈Kはなぜ強いのか〉にかけては、より日本文化に迫っていきます。「個人の自由を得た人々が、成熟を拒否する自由も得た」ポストモダンの日本では、社会が成熟する一方で個人が未成熟になってきています。"日本語ラップの感謝率は異常"といわれるような、J-POP(特にラップ)にあふれる「ありがとう」についても触れ、そこから過剰なポジティブ・シンキング、「ネガティブなことから目をそむけたいという考え」が蔓延していることも危惧しています。一方の韓国には若者の万能感に歯止めがかかる「父性」や事実を受け止めて次に進むべきモチベーションとなる「恨」などがあり、ネガティブな思考を大切にしてきたといえます。
 最後にはアイドル論を超えて「日本はどこに向かうべきなのか?」といったところにまで話題が広がっていきます。たしかに今のK-POPブームは、日本人が「『他者』を見る必要性」を知るいい機会となったのかもしれません。
 そしてまた、3.11後に読み直すと(提供されて当然と考える教育や労働などの)「権利が簡単に剥奪されるものだという想像力が働いていない」といった一文に、より深く考えさせられます。もちろん、K-POPについて詳しく知りたいというだけでも充分に役立ちますが、実に読みごたえのある一冊でした。

西森路代『K-POPがアジアを制覇する』
原書房/1,575円/2011年2月25日発売

【目次】
第1章 K-POP到来
東方神起の不在はK-POPブームに影響を与えたか/BIGBANGにとまどった業界人たち/女性アイドルの傾向は?/男性アイドルの傾向は?/キャラクターは事務所で決まる
第2章 ここが知りたいK-POP!
K-POPのダンスと日本アイドルのダンス/日韓の時代を超えた共通点とは?/フックとは何か?/どうして若い女性がK-POPにハマるのか/兵役とアイドル/アイドルを輸出する/日本とアジアのエンターテイメントの時差
第3章 アイドルでわかる日韓文化
アイドルの製作現場で起きていること/常にアップデートを迫られる韓国、変わらないものを求める日本/CDは株券ではないが、参加券ではある/日本のアイドルはガラパゴス化しているのか?/萌えと成熟
第4章 Kはなぜ強いのか
「ポジティブ・シンキング」で大丈夫!?/日本はどこに向かうべきなのか?)