2014年3月24日

愛のバトン

 オニュ(イム・ジギュ)は小児癌の病歴を隠すことに罪悪感をおぼえながら就職活動に励んでいる。病気を克服した仲間たちとバンドを組み、ボランティアで公演をしているが、TVドキュメンタリ番組への出演には踏みきれない。一方、かつてアイドルグループPINK LADYで活動していたイェナ(シム・イヨン)は、恋人が結婚すると言いだし、自殺未遂を起こす。イェナが搬送されたのはオニュがボランティアで通う病院だった。実はオニュは昔からイェナの大ファンで、出会えたことに大よろこび。イェナは息の詰まる病院からオニュに車で連れ出してもらい、次第に笑顔を取り戻していくが……。

 新大久保ドラマ&映画祭のオープニング作品として日本初上映された『愛のバトン』(『完全に大切な愛』より改題)。本国でも2万人程度しか動員できず、ソフト化もされていないという貴重な作品を観ることができました。
 製作費はDaumによる寄附でまかない、収益の40%は小児癌財団、30%は社団法人文化芸術社会貢献ネットワークに寄附するというプロジェクト。正直なところ、チャリティ的な目的が優先の、ぬるい“お涙ちょうだい”映画かと思っていたのですが、とってもあたたかく、いい作品でした。
 主演は地味ではあります。オニュ役のイム・ジギュは最近のドラマだと「最高の愛~恋はドゥグンドゥグン~」のトッコ・ジン(チャ・スンウォン)のマネジャー役とか、頼りなさ満点のイメージ。イェナ役のシム・イヨンは「棚ぼたのあなた」のおバカだけど健気で愛らしい主婦のオク役で泣かされました。いわゆるスターという感じではありませんが、好感度は高く、ぴったりなキャスティングだったのではないでしょうか。
 オニュがイェナに父親の話をあの時点までしないのはズルい(というのは、ストーリー展開上の都合であって、よく考えると不自然)と思わないでもないのですが、まったく考えてなかった展開なので、そのときは涙腺崩壊。実は2人はすでに過去に出会い、ある約束をしていたというのが判明しますが、それだけじゃない。オニュの連れていった場所がなぜイェナの思い出の場所だったのか、そういったことも明らかになるんですね。いやぁ、泣きました。子ども嫌いだったセヨンがサランと出会って変わっていく様子や、ヨンスのぎこちない恋など、周囲の人たちのサイドストーリーも微笑ましいものでした。
 それと、もうひとつ。映画はチャリティ・ライヴで復活したイェナの笑顔で終わり、その後、PINK BOYSのモデルとなったRAINBOW BRIDGEをはじめ、実際に小児癌を克服した人たちのインタビュー映像が流れます。実は最初、とってつけたような感じがして、ちょっと違和感をおぼえてしまいました。ひとりの女性の再生を描いたところなのに、と。しかし、そのインタビュー映像の内容を観て、なるほどと思った次第です。病を克服した彼らは口々に「恩返しがしたい」「誰かの役に立ちたい」といったことを語るんですね。それが結実したひとつのかたちがあのラストシーンにあったのだなと思い当たったのです。ステージで歌うイェナに、客席からオニュが登場し、観客がひとりまたひとりと踊りだすというサプライズ。おそらくあの客席には小児癌を克服した人たち、そしてまさに闘病中の人たちもいることでしょう。そんな彼らに元気をもらい、何度も死を選ぼうとしたイェナが大きな笑顔を浮かべるのです。そう考えると、ますます感動。ちなみに、歌うのはイ・ハンチョルのヒット曲「スーパースター」です。アレンジがまた素晴らしい。

愛のバトン

原題 완전 소중한 사랑(完全に大切な愛)
韓国/2013年製作/117分/2013年11月21日公開(韓国)
新大久保ドラマ&映画祭(2014年3月21日~30日)にて上映

監督:キム・ジンミン(『オー!マイDJ』)
脚本:パク・アナ
撮影:ノ・スンボ(『がんばって、ビョンホンさん』)
照明:キム・パダ
音楽:キム・テソン、アン・ソヨン、チョン・ジフン
美術:チョン・ジェウク(『家に帰る道』)
編集:イ・ジン(『チャ刑事』『ダンシング・クィーン』)

イム・ジギュ……オニュ
シム・イヨン……イェナ(=ユン・ジョイ) 元PINK LADY
オム・スジョン……チェ・セヨン ワイン・バー経営者
ユン・ボンギル……ヨンス ヨンスFLOWER店主
ユ・イェイル……ジナ 人形作家
イ・ウジン……サラン 小児癌患者
イ・ヨンイ……イ・ミョンジャ サランの祖母
イ・ギョンジン……オニュの母
キム・ビョンチョル……オニュの兄
キム・ヒョナ……オニュの兄嫁
ヤン・ハニョル……オニュの甥
コン・ジョンファン……パク・ウンテ PLモーターズ副社長
ウニュル……ソンホ PINK BOYSのメンバー
キム・ドンギュ……PINK BOYSのメンバー
キム・ジンチュン……PINK BOYSのメンバー
チェ・ヒソ……チョンPD テレビ番組のプロデューサー
キム・ボミ……ボラ セヨンのワイン・バーの従業員
ソ・ドンガプ……セヨンの元恋人

イ・ジェグ……ユン・サンヒョン イェナの父
イ・ジウ……幼い頃のイェナ(=ジョイ)
チェ・チャンヨプ……高校時代のオニュ
キム・ミンギョン……PINK LADY時代のイェナ
ハン・スイン……PINK LADYのメンバー
チ・ヨノ……PINK LADYのメンバー
ホン・イェウン……PINK LADYのメンバー

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