1980年5月、タクシー運転手のマンソプ(ソン・ガンホ)は、10万ウォンという大金につられてドイツ人記者のピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せて光州に向かう。戒厳令下の光州へ続く道は通行禁止となっていたが、機転を利かせて検問をくぐり抜け、2人は光州へ。そこでデモに参加している大学生のジェシク(リュ・ジュニョル)と出会い、ピーターは撮影をはじめる。マンソプはソウルで留守番をしている11歳の娘が気になり、不穏な空気に包まれた光州を早く立ち去ろうとするが……。
民主化を求める光州市民を戒厳軍が武力で鎮圧して多数の死傷者を出した「光州事件」の実話をもとにした作品。韓国では1,200万人を動員する大ヒットを記録しました。
序盤で突然、東京タワーが映って驚きましたが、ピーターは日本駐在の記者だったんですね。そこで隣国との連絡が途絶えたという話を耳にして――おそらくは功名心から――身分を偽って韓国に入国します。あまりの惨状に茫然としていたところマンソプに叱咤されてハッとする場面があるので、使命感は最初からあったわけではなく、次第に生まれていったんじゃないでしょうか。
丸腰の市民に銃弾を浴びせるなんていくら軍人でも躊躇しないのかと思いますが、そうした描写はいっさいありません。まったくもって情け容赦ない。映画をわかりやすくするための演出かと思いきや――まだまだ上映中なのでネタバレを避けるため詳しくは書きませんが――終盤のある人物の行動によって、すべての軍人がそうだったわけではないのだろうということがわかります。
また、うまいというかズルいというか終盤にはカーチェイスまであって、実はここが泣ける場面になってます。このへんの史実と娯楽のバランスをどう受け止めるかによって好き嫌いは分かれるでしょう。「あざとい」と見る向きもあるかもしれません。が、チョ・ヨンピルのヒット曲「おかっぱ頭」の軽快な音楽にはじまって、ソン・ガンホのコミカルなキャラクターに笑いつつ、いつの間にか過酷な現実を突きつけられている、見事な作品だと思いました。
ところで、マンソプが別れ際の車中で目に留めたマッチ箱にある「キム・サボク」を偽名として書きますが、それがモデルとなった実在の人物の名前ですね。事件の4年後に他界していたと息子さんが映画公開後に明かしたそうです。一方のユルゲン・ヒンツペーター(通称ピーター)は映画の完成も見ず2016年に他界。残念ながら2人が再会することは叶いませんでした。