2016年10月30日

私を忘れないで

交通事故に遭い、病院のベッドで目を覚ましたソグォン(チョン・ウソン)は、10年間の記憶を失くしていた。そんな彼の前に、ジニョン(キム・ハヌル)という女性が現われる。ソグォンの姿を見て涙を流す彼女に惹かれ、やがてソグォンはジニョンとの幸せな時間を過ごす。ところが、次第に過去の断片がソグォンの頭に浮かびはじめる。ジニョンはソグォンが記憶を取り戻しつつあることに怯えるのだが……。

 カリコレ2016で観逃してしまい、コリアン・シネマ・ウィーク2016にて鑑賞。
 まったく予備知識なく観ました。ジニョンの正体は詐欺師かと思ったほどで、衝撃の展開に驚愕。あまりに痛ましい事実がソグォンを待ち受けているのでした。
 序盤からところどころ引っかかる場面があるのですが、それらは真実が明かされたところで「そうだったのか!」と納得します。(1)ソグォンのもとへやって来たジニョンはなぜ彼の居場所がわかったのか、(2)ぬいぐるみを轢いてしまったジニョンはなぜあれほど取り乱したのか、(3)ジニョンが職場復帰を「その制服を着るのはうしろめたい」と断る理由、(4)ソニ(チョ・イジン)の飼っているマークという犬がソグォンに向かっていく理由、(5)ジニョンはなぜオランダに移住しようとするのか……などなど。
 しかし、よく考えると、ジニョンがかわいそうですね。もちろんソグォンもそうですが、彼は現実を受け止めきれずに逃避してるといえるわけで……。最後の記憶も「そこまでかよっ!」とツッコミたくなるような(本人ではなく、ふたりの当事者にとって)残酷なもので……。そういうところが悲劇といえば悲劇なのですが。
 とはいえ、チョン・ウソンはさすが。記憶を失くしたどこか虚ろなソグォンと、かつての冷たい弁護士だったソグォン、まるで別人のように演じてます。
 あとから知ったのですが、チョン・ウソン自ら製作を手がけ、新人監督を起用してるんですね。イ・ユンジョン監督はいくつかの作品で脚本や脚色を担当してますが、長編は初。2010年に同名の短編映画(主演はキム・ジョンテ)があって、自身の失踪届を出す男性の前に自分を知ってそうな女性が現れるというプロットなので、これを長編化したのでしょうか。
 終盤にまたしても悲劇的な展開を見せますが、かすかに救いのあるラストにホッとしました。

2016年10月24日

国選弁護人 ユン・ジンウォン

再開発地区の強制撤去現場で、ひとりの警察官が死亡した。現場に立てこもりを続けていたパク・チェホ(イ・ギョンヨン)が犯人として逮捕されるが、彼の息子もまた現場で命を落としている。国選弁護人として担当を依頼されたのは、三流弁護士のユン・ジノン(ユン・ゲサン)。チェホは「自分は警察官から息子を守ろうとしただけだ」と主張し、記者のスギョン(キム・オクピン)も「何か裏がある」という。事件を調べると、不自然な点が見られるばかりか、捜査資料は閲覧禁止とされていた。ホン検事(キム・ウィソン)らが事件を闇に葬ろうとするが、ジノンは世論を味方につけ、国を相手に裁判を起こすことを決意する。賠償請求額はわずか100ウォン。先輩弁護士のデソク(ユ・ヘジン)、そしてスギョンとともに、ただ真実のみを求めた訴訟を開始するが……。

 2009年の「龍山惨事」(再開発計画に反対して籠城した住民と警察特攻隊が衝突し、炎上したビルで5人が焼死した事件)をモチーフに製作された法廷サスペンス。冒頭でフィクションとの断り書きが出ますが、日本語字幕にはなってませんでした。日本では実際の事件を思い浮かべる人がいないということでしょうが、逆にいうと、韓国では断りが必要なほど記憶に残っている事件なのでしょう。
 主人公の名前が邦題になりましたが、実際の発音としては「ジノン」ですね。
 ユン・ゲサン扮する主人公のユン・ジノンは、地方大学の出身で、コネもない若手弁護士。わずかな功名心と正義感で国家相手に訴訟をぶち上げます。けっして清廉潔白というわけではありません。言葉も荒い行動派の記者コン・スギョン(キム・オクピン)、情に厚い先輩弁護士チャン・デソク(ユ・ヘジン)とともに前代未聞の裁判に挑んでいくという。
 国家権力への不信感を描いた韓国映画はたくさんあり、そうした傾向の一作。スカッとする結末には至らず、社会の不条理を思い知らされますが、演技巧者たちの芝居が堪能できます。イ・ギョンヨンは百想芸術大賞の助演男優賞を受賞しました。台詞はあまりないものの、ドラマ「六龍が飛ぶ」の李之蘭役、パク・ヘスが出てたりも。そういえば、ホン検事役のキム・ウィソンも「六龍が飛ぶ」で鄭夢周役でしたね。2000年代は実業家で俳優業は休業してましたが、このところ映画にもドラマにも精力的にしてます。

国選弁護人 ユン・ジンウォン

原題 소수의견(少数意見)
2013年/韓国/126分/2015年6月24日公開(韓国)/2016年10月1日(日本)