2019年3月31日

ママの3回目の結婚

 母のウニョン(イ・イルファ)が再婚すると言いだした。ウニョンは18歳で出産したが、娘のウンス(イ・ヨルム)は幼い頃に祖母(キム・ヨンオク)に預けられて育った。今回が3度めの結婚。ウンスは自分勝手な母に嫌気がさしていた。そして、出会ったばかりのガンウ(ヨン・ジュンソク)を誘惑するウンスには、ある計画があって……。


 2018年の「KBSドラマスペシャル」、8作め。
 主人公のウンス役を演じるイ・ヨルムは「家族を守れ」で知りましたが、ちょっと勝気、でも実は繊細な心をもっているという娘役にぴったりですね。
 娘の計画と、母の隠しごと――まぁ想像のつく展開ではありましたが、親子の感動物語。【ややネタバレ注意】「何回寝たら会いに来てくれる?」という幼いウンスの言葉を、最後、母であるウニョンが口にするところ、うまい脚本です。

2019年3月30日

逃避者たち

ある日突然、恋人のヒジュ(チェ・ユファ)が自殺した。刑事のジウク(イ・ハクジュ)は彼女に会うため夢の世界に逃避するが、そこでは“長期滞在者”の取り締まりが行われ、不気味な男たちに追われる。そんななかセヨン(キム・セビョク)と出会う。彼女もまた亡くした人に会うために夢へと逃避していて……。

 2018年の「KBSドラマスペシャル」、7作め。
 半分以上が夢のなかで物語が展開し、幻想的な雰囲気。【ややネタバレ注意】ヒジュが自殺した理由とセヨンが息子を亡くした交通事故に関係があるのだとばかり思っていたので、ちょっと肩透かしを喰らったような気がしないでもありません。
 セヨン役は『ひと夏のファンタジア』のキム・セビョクでした。主人公のジウク役を演じているイ・ハクジュは、カン・ドンウォン主演『プリースト 悪魔を葬る者』の元になった短編映画『12番目の補助司祭』で主演をつとめていた彼ですね。
 Glen Campbellの「Southern Nights」やAnimalsの「When I Was Young」という1960~70年代の曲のほか、なぜか映画『ブルーに生まれついて』のOST、Ethan Hawkeが歌う「I've Never Been In Love Before」も。ジウクがヒジュと最後まで観た唯一の映画と語るのは『デッドマン』(それこそ寝そうな……)なんですが。権利上の関係で差し替えられているのかもしれませんね。

2019年3月29日

テキサスヒット

 家を差し押さえられて離婚したジェフン(ソン・ヒョンジュ)は、元妻(チン・ギョン)と娘たちのために家の保証金を用立てるが、彼女の家には新しい男が出入りしていた。一方、ジェフンといっしょにスーパーの配達員をしているスンヒョン(ユゴン)は、母親から預かっていた大金をスポーツ賭博で失ってしまう。ある日、配達先でプロ野球選手のホンギ(キム・グァンヒョン)が愛人といるのを見かけたスンヒョンは、人生大逆転の計画を思いつく。


 タイトルになっている「テキサスヒット」は、弱い当たりのフライが内野手と外野手のあいだに落ちるヒットのことで、いわゆる「ぽてんヒット」。野球をモチーフに、2人のダメ男が一発逆転を狙って繰り広げるヒューマンドラマですね。小気味よいどんでん返し。
 野球選手役のキム・グァンヒョンは実際に元プロ野球選手だとか。現在は日本でも公開が決定した『工作 黒金星と呼ばれた男』など映画俳優として活動しているようです。

2019年3月8日

こんなにも長い別れ

サンヒ(イム・ジュファン)はデビュー作『鳥たちはサマータイム』が50万部のヒットとなった小説家。ところが、出版社ピットルと1億ウォンで契約したものの、新作が書けないまま5年が経っていた。恋人で編集者のイナ(チャン・ヒジン)は3ヶ月以内に原稿をもらうようク代表(チョン・ジェソン)に命じられる。サンヒの才能を信じるイナは「作家は書くだけでいい」と励ますが、サンヒはまったく書けない。やがてサンヒはイナといても息苦しさを感じるようになり……。

 2018年の「KBSドラマスペシャル」、6作め。
 スランプに陥った小説家のサンヒ(イム・ジュファン)と、その恋人でもある担当編集者のイナ(チャン・ヒジン)、2人の。これはだいたい男のほうが悪いですね(笑)。イナは「本を売るのは私の仕事だから、あなたはただ書くだけでいい」と励ましていて、その言い方にも厭味などなく、信じて支え続けているわけです。イナが新人賞作家の担当になったことで波風が立ちますが、これも完全にサンヒのやっかみ。社長に対しても逆ギレとしかいいようがありません。5年も最後まで書き上げたことがないなんて、そりゃあんたが悪いだろう、というしかないですよね。
 ところで、ラストシーンが気になりました【以下、ネタバレ注意】。1年後にイナがサンヒの新作を書店で手に取るのですが、読み終えて去っていきます。え、小説を1冊丸ごと立ち読みで済ませたの!? ひどい。編集者としてあるまじき行為じゃないですか(笑)。
 イナとサンヒの大学路デートで流れるのはユンナの「My Song and…」、エンディングに流れるのはLaura Pausini「Cuando Se Ama」でした。

2019年3月2日

金子文子と朴烈

1923年、東京。文子(チェ・ヒソ)は「犬ころ」という詩に心を奪われた。その詩を書いたのは朝鮮人アナキストの朴烈(イ・ジェフン)。共鳴した2人は同居誓約を結び、不逞社のメンバーとともに社会を変えるべく行動する。ところが9月1日、関東大震災が発生。自警団による朝鮮人虐殺が起こるが、その事実を隠蔽するため、水野内務大臣(キム・イヌ)は立松判事(キム・ジュナン)に朴を大逆罪で起訴するよう命じた。文子と朴は歴史的な裁判で法廷に立つことに……。

 平日の昼にもかかわらず、ほぼ満席。金子文子に興味をもって図書館で関連書籍を借りようとしましたが、どれもみな貸し出し中でした。予想以上の反響を呼んでいるようです。
 なんといっても文子役を演じたチェ・ヒソが最高。幼い頃に日本に住んでいたことはあるそうですが、ほとんど完璧な日本語で、日本語訛りの朝鮮語まで使いこなします。たくましく、それでいて悪戯っぽい笑顔を見せたり、たまらなくキュート。イ・ジェフンももちろんいいんですが、チェ・ヒソが魅力的に演じた文子が圧倒的に印象に残ります。原題は『朴烈』ですが、この邦題は正解ですね。
 それともうひとり、立松判事役のキム・ジュナンが素晴らしい。在日コリアンのイ・サンイル弁護士役を演じた『HERSTORY』で驚いたのですが、本作でも流暢な日本語を使ってます。でも日本で暮らした経験は3ヶ月ほどしかないとか。すごいのは言葉だけでなく、文子と朴に向きあいながら時に揺れていく姿が絶妙です。2018年にはドラマ「時間」でメインキャストを担いましたが、今後もますます期待したい俳優ですね。
 シリアスな物語ではありますが、2人の主人公にはユーモアがあり、ときどきクスッと笑える場面も。文子の「消え失せろ!」「静かにしろ!」といった啖呵は痛快です。司法大臣や警視総監があっさり辞職するとか、日本政府の面々は滑稽だったり。
 そして、単純に日本が悪というのではなく、日本人のなかにも心ある者がいたことははっきり描かれてますし、朴自身にも「日本政府は憎いが、日本の民衆にはむしろ親近感を覚える」という台詞がありました。今こそ観るべき映画。全国順次公開中ですが、さらに上映館を拡大してロングランを続けてほしいものです。