2016年11月26日

パパ

芸能マネジャーのチュンソプ(パク・ヨンウ)は逃げた所属歌手を捜しにアメリカへやって来た。ミヨン(シム・ヘジン)と偽装結婚をして不法滞在から逃れようとするものの、その直後、ミヨンが交通事故で他界。強制送還されそうになったところ、チュンソプの前に現れたのは、ミヨンの娘のジュン(Ara)だった。彼女は母が養子にした5人の弟妹と暮らしている。「宮廷女官チャングムの誓い」が大好きな黒人系のゴードン、シニカルなスパニッシュ系のマヤ、ラッパーを目指す双子のジミー&トミー、そしてチュンソプを「パパ」と呼んで抱きついてくる幼いロジー。仕方なく家族のふりをするチュンソプだったが、やがてジュンの天才的な歌声を知って……。

 新大久保映画祭2016で鑑賞。劇場未公開作とはいえ、なぜ4年も前の作品をやるのかと思ったのですが、新大久保はアジアを中心とするさまざまな国の人々が集まる街。この映画祭も「多文化共生」を打ち出すようになり、3回めとなる今年は、韓国映画のみならず中国やヴェトナムなど7ヶ国の作品を上映するのでした。
 そんな趣旨からすると、この『パパ』はぴったりですね。アメリカが舞台で、多様なバックボーンをもつ血のつながらない兄弟姉妹と心を通わせていく主人公。疑似ファミリーが繰り広げる笑いと涙のヒューマンドラマです。音楽でひとつになるというところも、ありがちといえばありがちですが、子どもたちが愛らしく、楽しい場面でした。パク・サンチョルの「無条件」を歌うロジーもかわいい。パク・サンチョルが特別出演してたりも。そして、ラストシーンはあったかなサプライズ。

パパ

原題 파파(パパ)
2011年/韓国/118分/2012年2月1日公開(韓国)
第7回東アジア市民共生映画祭にて日本初上映(2015年10月10日)

2016年11月25日

ミス・ワイフ

冷静沈着で勝訴率100%の独身弁護士のヨヌ(オム・ジョンファ)は、ある日、交通事故に遭った。目覚めたヨヌの前に現れたのは、そこが天国の中継所だというイ所長(キム・サンホ)。手違いで早く亡くなった人の代わりに1ヶ月を過ごせば、生き返らせてくれるという。その条件を呑んで再び目覚めると、ヨヌは2人の子をもつ主婦になっていた。夫のソンファン(ソン・スンホン)、生意気な娘のハヌル(ソ・シネ)らとの暮らしは以前とは真逆。パニックに陥るヨヌだったが……。

 当初『素敵な悪夢』として撮影も進められていた作品、結局、韓国でも『ミス・ワイフ』として公開されました。当たり障りのないタイトルすぎて、元のほうがよかった気もしますね。
 クールな独身弁護士という役にオム・ジョンファがぴったり。娘のハヌルに「サイボーグみたい」と言われたりしてヒヤッとしますが(笑)。ソン・スンホンは“無駄にハンサムな公務員”という役どころで、娘に煙たがられるお調子者。最初はコミカルすぎてどうも合わない気がしたのですが、物語が進むと、妻への侮辱だけは絶対に許さない、男気のあるところを見せたりするのでした。「この濃い眉がカッコいいって言っただろ!」なんて鉄板ネタもあります(笑)。そして、出番は少ないもののラ・ミランがやっぱりおもしろい。
 恋愛や家族とは無縁のキャリアウーマンが入れ替わりの人生を経験するうちに……と想定内のストーリー展開ですが、それなりに楽しめました。ただ、イ所長の正体というのは必要だったんでしょうか!? 伏線らしきものはなかったように思いますし、唐突すぎるような気が。

ミス・ワイフ

原題 미쓰 와이프(ミス・ワイフ)
2015年/韓国/124分/2015年8月13日公開(韓国)
2016年8月13日公開(日本) http://misswife-movie.com

監督 カン・ヒョジン(『ミス・ギャングスター』)
脚本 キム・ジェヨン(『夜の女王』)、チョン・ミンギュ

2016年11月23日

イ・ラン@タワレコ渋谷

 ヒョゴ@duo MUSIC EXCHANGEの前にはTOWER RECORDS渋谷店の6Fイベントスペースでイ・ランのインストア・ライヴがありました。『ヨンヨンスン』『神様ごっこ』の日本盤リリースを記念したイベントで、いずれか購入の場合は先着でサイン会への参加も。すでに持ってるので、ライヴの観覧だけでしたが。
 2集『神様ごっこ』でも印象的なチェロを従えての全5曲。1曲めを除いてすべてその2集からの曲でした。「無料なのでアンコールはなし」とか、あけすけなMCがステキ(笑)。

이랑(イ・ラン)@TOWER RECORDS渋谷店

カツオ・プレゼンツ・熱い音ライブ
2016/11/19

1. ヨンヨンスン
2. 神様ごっこ
3. 家族を探して
4. 世界中の人々が私を憎みはじめた
5. 私はなんで知っているのですか

2016年11月22日

ヒョゴ@duo MUSIC EXCHANGE

昨年のTSUTAYA O-nest公演は即完だったそうで、今回ももちろん完売でしたが、なんとか観ることができました。前々日の大阪公演を経ての東京公演。開場前からduo MUSIC EXCHANGEの入口付近にはものすごい人でした。開演直前に倒れた人もいたようです(大丈夫だったでしょうか……)。年齢層は幅広く、意外と男性率が多かったように思います。
 オープニングにはオフショットの映像が流れ、2曲が終わったところで最初のMC。ポケットから紙切れを取り出して、たどたどしい日本語で衣裳について「カガクシャカンジデキテミマシタ」と話したりすると、会場のあちこちから「かわいい」との声が(笑)。オ・ヒョクのコワモテとのギャップがウケてるんでしょうね。ほとんど客席を見ずに(時には完全に背を向けて)歌いますが、どんだけシャイなのか(笑)。
 中盤で披露した「맛있는술」はドラマ「アントラージュ」の挿入歌。攻めてきましたねぇ。イントロから超絶カッコいい。今いちばん好きな曲かも。カントリー調の「멋진 헛간」は、ブレイクのひとつのきっかけ、バラエティ番組「無限に挑戦」の2015年の“歌謡祭”企画でチョン・ヒョンドンと組んだ오대천왕の曲です。番組のステージでは長谷川陽平(チャン・ギハと顔たち)がバンジョーでフィーチャリングされてましたが、そのヒョゴ・ヴァージョンになりますね。「소녀」は「応答せよ1988」の挿入歌で、オ・ヒョクがソロ名義で歌ったイ・ムンセの1985年作品のリメイク。また、最新曲もやってくれました。曲名は言わなかったと思いますが、「Paul」というタイトルのようです。
 ブルージーでありつつ、ソウルフルだったりパンキッシュだったり、ファンクネスを感じさせたリ。そして、もちろんロックンロール。これだけ多彩な音楽を弱冠23歳の4人が奏でているのだから驚きです。こんなバンド、ほかにいないでしょう。
 あと、もうひとつ驚いたのが、観客もいっしょに歌えること。特に「위잉위잉」ですが、韓国語の歌詞を多くの人がいっしょになって口ずさんでるんですね。韓国から来たファンが多いのかと思いきや、けっこう日本人も。なかなかすごいことじゃないでしょうか。
 新譜、そして次の来日公演が早くも楽しみです。

혁오(ヒョゴ)@duo MUSIC EXCHANGE

2016/11/19

2016年11月21日

ちりも積もればロマンス

無職なのに見栄っ張りなジウン(ソン・ジュンギ)は家賃が払えずアパートの部屋も追い出された。そこに声をかけてきたのが、ドケチなホンシル(ハン・イェスル)。「2ヵ月間、何でもいうことをきく」のを条件に、金儲けのノウハウを教えるというのだが……。

 高飛車な役どころのイメージの強いハン・イェスルが空き壜を集めたりするドケチなヒロイン、一方のソン・ジュンギは軽薄なチャラ男。ドタバタのラブコメディです。88万ウォン世代(月収88万ウォン程度のワーキングプアのこと)のリアルな恋愛事情という点にもっと踏み込んでもいいような気もしますが、気軽に観る娯楽作ですね。あちこち笑えるシーンはありますが、まぁ、それだけというか……。終盤はちょっと強引な感じもしますし。それぞれのファンには楽しめることでしょう。
 ところで、LaLaTVで放送されたものを観たら、ムン・セユンの役名が「サオプ」となってました。これは誤訳。スクーター同好会の「シスオペ」ですから! パソコン通信を知らない若い人が訳したんでしょうね。電子会議室の運営者をシスオペ(システムオペレーター)と呼んだのです。今風にいえば「板の管理人」といったところでしょうか。

ちりも積もればロマンス

原題 티끌모아 로맨스(ちりも積もればロマンス)
2011年/韓国/114分/2011年11月10日公開(韓国)
2012年5月12日公開(日本) http://cjent.jp/chiri/

2016年11月20日

12番目の補助司祭

2015年の『プリースト 悪魔を葬る者』の元となった短編映画。ぜひ観たいと思っていたところ、Vimeoで日本からも視聴することができました。英語字幕付き、48時間以内のレンタル(=ストリーミング視聴)が242円で、購入が606円です。
 悪魔祓いの儀式に向かうところから一度は逃げだしたアガトが再び悪魔祓いに臨むところまで、ほぼ構成は同じ。キャストが地味だったり、お金がかかってなさそうだったり(血を吐くシーンなどはやっぱり迫力に欠けたり)はするものの、それだけ、すでに完成されていたということでしょう。第12回アシアナ国際短編映画祭で「短編の顔」賞、第13回ミジャンセン短編映画祭で絶対悪夢部門の最優秀作品賞、第15回大邱短編映画祭では大賞と撮影賞(キム・テス)を受賞しています。
 アガトのトラウマは違っています。長編では幼い頃に亡くした妹と自分自身が出てくることで深みがあって、その後のキム神父の台詞もすごくいいものになってましたが、短編では、ある軍隊での出来事。兵役そのものが韓国ならではですが、さらに内容的にかなり強烈なものでした。どちらも捨てがたいところです。

12番目の補助司祭

原題 12번째 보조사제
2014年/韓国/25分

監督・脚本 チャン・ジェヒョン

イ・ハクジュ……アガト
パク・チイル……キム神父
イム・ソンミ……ヨンシン


12th Assistant Deacon (12번째 보조사제) from Central Park Films on Vimeo.

2016年11月19日

プリースト 悪魔を葬る者

女子高生のヨンシン(パク・ソダム)が轢き逃げに遭い、さらに病室から投身自殺を図った。キム神父(キム・ユンソク)は何かに取り憑かれていると確信し、ヨンシンを救うため、悪魔祓いを行うと宣言する。神学生のアガト(カン・ドンウォン)が補助司祭に抜擢されるが、学長(キム・ウィソン)はキム神父の行動を監視するよう命じていた。他の神父たちは型破りなキム神父に疑いの目を向けていたのだ。キム神父とアガトは危険な悪魔祓いに臨むが……。

 韓国には珍しい、エクソシズム=悪魔祓いを描いた映画。
 なかなかグロテスクな描写も多いのですが、観客動員は500万人を突破。韓国人、すごいですね。わさわさとゴキブリが這い出してくるところとか(CGだろうけども)勘弁してほしいんですが……。とはいえ、108分があっという間。終盤のアクションシーンもすさまじい勢いで、目が離せず、チャン・ジェヒョン監督は長編デビュー作とは思えない演出力を見せてます。元になった短編『12번째 보조사제(12番目の補助司祭)』が2014年の全州国際映画祭・韓国短編コンペティション部門で監督賞を受賞してるそうで、なるほど。次回作も楽しみです。
 悪魔に憑かれたヨンシン役を演じるパク・ソダムもまたすごい。百想芸術大賞をはじめ、いくつもの新人賞に輝いたのも納得。鬼気迫る演技とはこういうことでしょう。撮影のために丸刈りにする心意気も。そしてやっぱり、カン・ドンウォンが美しいですね。アガトはあるトラウマを抱えていて、それを克服する過程も物語の軸といえるでしょう。一方のキム・ユンソクが演じるキム神父は、アガトの心の傷を抉るような言葉を浴びせるデリカシーのない感じの粗野な男ですが、ヨンソンのために涙を流す一面ももっています。それに、戻ってきたアガトに「おまえは悪くない」と語りかける言葉も利いてました。教会からすれば厄介者でしかありませんが、心根はやさしい人物なのだとわかります。
 ちなみに、カン・ドンウォンとキム・ユンソクが劇中で歌うのは、聖歌「復活のいけにえに(Victimae Paschali Laudes )」。エンドロールでも流れます。

プリースト 悪魔を葬る者

原題 검은 사제들(黒い司祭たち)
2015年/韓国/108分/2015年11月5日公開(韓国)
2016年10月22日公開(日本) 韓国映画セレクション2016 AUTUMN

2016年11月18日

サムネ

映画監督のスンウ(イ・ソノ)は、新作のシナリオ構想のため全羅北道の町、サムネを訪れた。そこで出会った神秘的な少女のヒイン(キム・ボラ)に惹かれていくが……。

 ポカーン。
 わけがわかりませんでした。会場のあちらこちらからいびきも聞こえてきました。空を舞う黒いビニール袋なんかに象徴的な意味が込められてるのかもしれませんが、さっぱり……。主人公が車中で読むヘッセの『デミアン』にヒントがあるのかなと思ったものの、妄想的なところがあるとはいえ、ピンときません。キム・ボラが大人っぽくなったなぁとか、イ・ヨンニョってやっぱり巫堂みたいな役かぁとか思うものの、難解すぎて何度も睡魔に襲われます。夢か現かという奇妙なイメージの連鎖する作品でした。
 タイトルの삼례/サムネとは地名で、漢字で書くと「参礼」。全羅北道完州郡参礼邑が舞台です。全州国際映画祭の支援を受けているそうで、町おこし的なものかもしれませんが、これを観て訪れたいと思うかは……。
『どのように別れるか』が直前に上映中止となったので、コリアン・シネマ・ウィーク2016で唯一の日本未公開作。ある意味では目玉だったわけですが、これかぁ……というのが正直なところですね。しかし、カン・サネが本人役で友情出演していて、「라구요」を歌うのにはびっくり。そのタイトルを日本語字幕では「そんなふうに」としてましたが、北に想いを馳せる両親の言葉を引用したあとに続く言葉なので「…だってさ」くらいがいいんじゃないでしょうか。


サムネ

原題 삼례(サムネ)
2015年/韓国/94分/2016年6月23日(韓国)
コリアン・シネマ・ウィーク2016にて日本初上映

監督・脚本・編集 イ・ヒョンジョン

イ・ソノ……スンウ
キム・ボラ……ヒイン
イ・ヨンニョ……ヒインの祖母
クォン・ジェヒョン……ヒインの兄
コ・グァンジェ……卑屈な男
ノ・シホン……鶏屋の主人
キム・ヒョンチョル……プロデューサー
キム・ドガム……助監督
カン・サネ……カン・サネ

2016年11月17日

奇跡のピアノ

目の見えないユ・イェウンは、3歳のときに母の口ずさんだ歌をピアノで演奏しはじめ、たちまち天才少女ともてはやされるようになった。母はイェウンをピアニストにするため時に厳しく練習させる。やがてイェウンはコンクールに出場するが……。

 優れた聴覚と音感をもつ盲目の少女と彼女を支える両親の喜怒哀楽を綴ったドキュメンタリ映画。
 ナレーションはパク・ユチョン。8年前に音楽番組で共演したことがあるそうで、イェウンのピアノ伴奏で歌ったのだとか。エンドロールのクレジットには名前のあとに「才能寄附」と明記。韓国でよく使われる言葉で、ノーギャラの声の出演ということになります。わざわざ書くことかなぁと思わなくもないですが……。
 途中で、イェウンは「本当のお母さん」のことが知りたいと言いだします。そう、彼女は実の子ではないのでした。母のパク・チョンスンは、生後1ヶ月のときに一時的にイェウンを預かったのですが、障害のため里親は現れなかったのだそうです。彼女は障害者施設を運営しています。夫のユ・ジャンジュも交通事故による脊髄損傷であらゆる日常生活に要介助。それでも笑顔を絶やさず、たくましく暮らしています。イェウンの質問に「私はお母さんじゃないの? いっしょに住んでるのがお母さんでしょ」と答えます。目が見えないことに対しても「見えなくても生きていけるでしょ? みんな違ってる」と諭します。「痩せてる人もいれば、太ってる人もいるでしょう。お母さんみたいに」と笑わせて。
 しかし、つらい場面も少なくありません。仲のいいヒョンジに「大きくなったら見えるようになるかな」と尋ねたりしますが、イェウンには先天的に眼球がないのです……。また、よく理解してくれる人ばかりではありません。コンクールに向けて特別レッスンを受けることになるのですが、その先生、イェウンにこんなことを言います。
「楽譜どおりに弾かなきゃダメでしょう」
 イェウンは楽譜を読めないんですよ……。先生が帰ったあとにイェウンは悔し涙を流します。
 その一方で、ピアニストのイ・ジヌクとの出会いはイェウンの才能を伸ばします。初めて会った日、イェウンが感じた気分をピアノで表現させ、それに続けてイ先生が曲を展開、それを再びイェウンが継いで……と繰り返します。まるで会話をするかのように。イェウンが物語性のある音楽を生みだすことに気づき、イ先生は「うらやましい」とまで言います。そして自分のコンサートに特別ゲストとして招き、ふたりで作曲した「白雪姫と七人のこびと」を演奏するのでした。
 テレビで“5歳の天才モーツァルト”と紹介されたのはカン・ホドンがMCを務めるバラエティ番組「スターキング」。2007年3月3日に放送された第8回ですね。画面には若々しいハハがちらっと映ってました。

奇跡のピアノ

原題 기적의 피아노(奇跡のピアノ)
2015年/韓国/80分/2015年9月3日公開(韓国)
2016年10月22日公開(日本) 韓国映画セレクション2016 AUTUMN

監督 イム・ソング
ナレーション パク・ユチョン

2016年11月9日

ひと夏のファンタジア

第1章 First Love, Yoshiko(初恋、よしこ)
 映画監督のテフン(イム・ヒョングク)が次回作の構想を練るため五條市にやって来た。彼はミジョン(キム・セビョク)の通訳で観光課職員の友助(岩瀬亮)に案内してもらう。

第2章 Well of Sakura(桜井戸)
 女優の仕事に悩みを抱えるヘジョン(キム・セビョク)が五條を訪れた。観光案内所で声をかけてきた柿農家の友助(岩瀬亮)と次第に打ち解け、帰国前夜、花火大会に誘われるが……。

 劇場公開時も見逃してしまって、ようやく新大久保映画祭で観ることができました。
 なら国際映画祭「NARAtiveプロジェクト」の2014年度作品で、奈良県五條市を舞台とする日韓合作映画。現地の一般人へのインタビューを交えたドキュメンタリタッチの第1章と、韓国人と日本人の出会いを描いたフィクションの第2章からなります。ホン・サンスっぽくもありますが、あちらほど不条理ではなく、わかりやすい構成といえるでしょうか(深読みもできるのでしょうけども)。第1章は全編モノクロで、テフンが煙草を吸いに外へ出て振り向くと、夜空に打ち上げ花火が広がってカラーの第2章へとつながります。鮮やか。昔ながらの喫茶店、寂れた山奥の村、廃校になった小学校といった場所、韓国人を案内したことがあるという友助の話、ケンジ(康すおん)の韓国人留学生との恋といったエピソード……などなど、第1章で映画監督のテフンが見聞きしたことが、第2章のモチーフになってます。
 主演のキム・セビョクと岩瀬亮はそれぞれ2役を演じてる(岩瀬亮の役は同名ですが、設定が違う)わけですが、気づかない人もいたとか。たしかに、だいぶ印象は違いますね。余談ですが、この作品の、特に第2章の岩瀬亮ってピョン・ヨハン(とりわけドラマ「元カノクラブ」での彼)に似てると思いました。
 第2章も即興的に撮影したそうで、ドキドキ感がたまらないクライマックスは、それぞれに別のディレクションをしていたんだとか。なるほど。順撮りだそうですし、ある意味ではドキュメンタリ的といえるかもしれませんね。どこか切なく、夢のようでもありつつ、やっぱりリアル。「ひと夏のファンタジア」というタイトルがぴったりです。
 イ・ミンフィによる音楽もすごくいいですね。特にエンディングで流れる「ひと夏のファンタジア」。歌詞に韓国語と日本語が混在する、はかなげな雰囲気のアコースティックな楽曲です。菊地成孔は「この曲を聴くためだけでも、本作を観るべきだ」とまで書いてました。

ひと夏のファンタジア

原題 한여름의 판타지아(ひと夏のファンタジア)
2014年/日本・韓国/97分/2015年6月11日公開(韓国)
2016年6月15日公開(日本) http://hitonatsunofantasia.com/

監督・脚本 チャン・ゴンジェ

キム・セビョク……パク・ミジョン/ヘジョン
岩瀬亮……武田友助
イム・ヒョングク……キム・テフン
康すおん……ケンジ

2016年11月5日

ケチュンばあちゃん

海女のケチュン(ユン・ヨジョン)は幼い孫娘のヘジ(キム・ゴウン)と済州島で慎ましくも幸せなに暮らしていた。ところがある日、市場でヘジを見失ってしまう。
 ――12年後、ヘジが見つかったと連絡が入る。実母に連れ去られ、ばあちゃんは死んだと聞かされていたのだという。ケチュンとふたりで暮らしはじめたヘジは、高校に通うようになり、幼い頃から好きだった絵の才能を美術教師のチュンソプ(ヤン・イクチュン)に見いだされる。しかし、ソウルで開催された美術コンテストの会場で再び姿を消してしまう……。

 ベテランのユン・ヨジョンと、若手実力派のキム・ゴウン。安心なふたりの主演で、切なくも、あたたかな気持ちにさせられる作品でした。ぶっきらぼうながらヘジの才能を伸ばす美術教師役のヤン・イクチュンも、いいたたずまいをしてますね。
 もっとも気になるのがヘジの正体なわけですが、はじめは詐欺師なのかと思ってしまいました。本人でなければ知らないはずの幼い頃の思い出をちゃんと語るものの、何かを隠してるようで……。それが、ひねりの効いた、それでいて納得の設定。やられました。そして、ケチュンばあちゃんの最期の言葉は真実を知ったうえでも思いやりにあふれたもの。終盤は泣かずにいられませんでした。
 ちなみに、タイトルにある할망(ハルマン)は済州方言だそうで、 할머니(ハルモニ)、つまり「おばあさん」のことです。
 SHINeeのミノも出てることですし、日本でも劇場公開されるといいですね。

ケチュンばあちゃん

原題 계춘할망(ケチュンばあちゃん)
2015年/韓国/116分/2016年5月19日公開(韓国)
第29回東京国際映画祭にて日本初上映

2016年11月4日

あなた自身とあなたのこと

ソウル、延南洞。画家のヨンス(キム・ジュヒョク)は、恋人のミンジョン(イ・ユヨン)が酒を控える約束を破っていると聞き、彼女と言い争いに。ミンジョンは「距離をおきましょう」と去り、ヨンスは後悔する。その一方で、ミンジョンはジェヨン(クォン・ヘヒョ)にもサンウォン(ユ・ジュンサン)にも声をかけられるが、人違いと言い張っている。やがてヨンスはミンジョンを見つけるが……。

 ホン・サンス節、健在。もちろん唐突なズームも。
 今作は、イ・ユヨン扮する不可解なヒロイン、ミンジョンがとりわけ印象的。彼女は誰に対しても「人違い」と言いますが、本当に別人なのだったらSF的なファンタジーですし、本人がそう思い込んでいるのだとしたらある種の病的なもの、すべてが芝居なのだとしたらかなりコワい話です。正解のヒントはまったくなく、まるっきり観客に委ねられているところがホン・サンスらしいおもしろさだと思います。
 ヨンスは「初めて会ったときのよう」と新鮮な気持ちでミンジョンに向き合いますが、それでいいのかよ!と思いつつも、「(相手のことを)知ってるつもりになって失敗ばかり」というヨンスの言葉にはなかなか深いものがあります。人生の教訓と受け取ることもできますし、ハッピーエンドといえばハッピーエンド。これは観る人によってだいぶ違ってくるんでしょうね。また観ると印象も変わりそうです。日本でも劇場公開されるといいのですが。

あなた自身とあなたのこと

原題 당신자신과 당신의 것(あなた自身とあなたのこと)
2016年/韓国/86分/2016年11月10日公開(韓国)
第29回東京国際映画祭にて日本初上映

2016年11月2日

グローリーデイ

20歳になった4人の親友同士。サンウ(スホ)は祖母に苦労をかけまいと入隊を志願した。4人は浦項への最後の旅行を計画。ヨンビ(ジス)は、母の目を盗んで家を抜け出したジゴン(リュ・ジュニョル)とともに、野球部の練習からトゥマン(キム・ヒチャン)を連れ出した。海辺で旅行を満喫する4人だったが、港で暴行に遭う女性を目撃。正義感の強いヨンビが止めに入るが……。

 え、ここで終わり!? というのが正直なところ。もろくも崩れた友情をどう取り戻すか(あるいは取り戻さないか)は描かず、崩れ去ったところで終わってしまいました。それはそれでアリかもしれませんが、ちょっと物足りないような……。
「麗~花萌ゆる8人の皇子たち~」のジス、「応答せよ1988」のリュ・ジュニョル、「恋はチーズ・イン・ザ・トラップ」のキム・ヒチャンと旬の若手俳優が勢ぞろい。EXOのスホはさすがにズバ抜けたルックスですね。そのおかげの日本公開でしょう。
 まともに話を聞こうとしない警察、世間体ばかり気にする親――大人の身勝手さに翻弄される若者たちの痛ましい青春物語。登場人物と同世代だったら充分に刺さったかもしれません。

グローリーデイ

原題 글로리데이(グローリーデイ)
2015年/韓国/93分/2016年3月24日公開(韓国)
2016年10月8日公開(日本) http://gloryday-movie.com