2017年6月9日

ヨヌの夏


 昼は父の遺した“ヨヌ修理店”で家電の修理を請け負い、夜はバーでアルバイトをしながら音楽活動をしているヨヌ(ハン・イェリ)が、交通事故に遭った母(キム・ヘオク)の代わりに1週間だけビル清掃の仕事をすることになった。そこで一流企業に勤める小学校の同級生のジワン(イム・セミ)と再会し、代わりに親の決めた見合いに行くよう頼まれる。断りきれずユナン(ハン・ジュワン)と出会い、心惹かれるが、ヨヌは本当のことを言いだせず……。

 ハン・イェリの魅力が存分に発揮された短編ドラマでした。ヨヌがバーで歌うラストシーン、店のドアが開く音に続いてヨヌが笑顔を浮かべます。その直前のシーンはユナンへの電話で終わっているので、明示はされないものの、きっと、すべてを知ったうえでユナンがヨヌに会いに来たと考えるべきでしょう。ハン・イェリの素朴な歌とあいまって、さわやかな余韻を残して終わります。全編をとおして説明的じゃないところにも好感がもてました。
 ジワン役のイム・セミは、いわゆる悪女役かと思いきや、憎めないとこもあったりして、「ショッピング王」なんかと同様の役どころ。ユナン役のハン・ジュワンはまだそんなに顔を知られていない頃ですね。バー“Arturo Domingo”の従業員(?)で、ヨヌに歌詞を書くよう勧めるギオ役は、ハチこと春日博文とのデュオ“ハチとTJ”のTJ。本名のチョ・テジュンでクレジットされてます。ちなみに、彼といっしょにいるウクレレ奏者はKEKOA(=イ・ドンゴル)で、この2人はTJ&KEKOAというユニットも組んでます。
 この作品、音楽もいいんです。音楽監督は秋休み(가을방학)のチョン・バビ(정바비)。そんなわけで、自身の別バンドであるJulia Hartをはじめ、小規模アカシアバンド、Plastic Peopleと韓国インディシーンの人気バンドの楽曲が満載。あと、クレジットはされてませんが、ジワンが車内アナウンスで映画『マルコヴィッチの穴』について語る(そしてヨヌへのメッセージを込めてる)場面では映画のエンディングに使用されたBjorkの"Amphibian"が流れました。

2017年6月8日

ピノキオの鼻


 心理学者のダジョン(イ・ユリ)はイングク(イ・ハユル)との結婚を控えているが、彼にも明かせない過去を抱えていた。15年前、母(キム・イェリョン)が失踪し、遺体は見つからないものの、父(パク・チャンファン)が殺人の容疑で逮捕されたのだった。証拠不充分で釈放されたが、母を殺したのは父かもしれないという不安のなか、ダジョンは父の顔も見られずに過ごしてきた。ところが時効を迎える母の命日を前に、妹(ミラム)が父を連れてやって来て……。

 主演はこの枠にしては大女優のイ・ユリ。「天上の約束」でのイ・ジョンミとの縁(当時は演出ではなくプロデュース)から出演を決めたそうです。イ・ユリはもちろんですが、15年前のダジョン役を演じるのが「パンチ」などのキム・ジヨンで、これがまた抜群にうまい。さすがの名子役でした。似てるし。
 警察官に嘘を見破る講義をするほどの心理学者であるダジョンが、15年ものあいだ避けてきた父と向き合うことになります。はたして「殺してない」と訴える父の言葉は嘘なのか……。意外な事実が明かされる、驚きの結末でした。

2017年5月12日

ディア・マイ・フレンズ

夫を亡くしたヒジャ(キム・ヘジャ)は誰にも迷惑をかけたくないとひとりで暮らすことを決意した。ジョンア(ナ・ムニ)は夫のソッキュン(シン・グ)に世界一周旅行に連れていってもらう約束を楽しみにしている。ある日、ナニ(コ・ドゥシム)は娘のワン(コ・ヒョンジョン)に運転手をさせ、チュンナム(ユン・ヨジョン)の店で開かれる同窓会へ。そこにナニと犬猿の仲のヨンウォン(パク・ウォンスク)も現れ、2人はとっくみあいの喧嘩をはじめるが……。

 まずはこのキャストの豪華さに驚き。ベテランの大女優ばかりがメインキャストに勢ぞろい。小説を執筆するワン(コ・ヒョンジョン)の視点で綴られていて、彼女のロマンスもひとつの軸にはなっていますが、ここまで老人だらけのドラマも珍しいですよね。当然ながら病に直面したり、老いに怯えたり、また老老介護といったことが背景にあったりしますが、恋にときめいたり、はしゃいだり、とても活き活きとしてます。笑えるシーンはたくさんありながら、後半は涙なしには観られません。とはいえ、けっして悲観的なエンディングを迎えるわけではなく、すがすがしい終わり方でした。
 こんなふうに、厚い友情で結ばれた老後は素敵ですね。

2017年5月11日

ディア・マイ・フレンズ【あらすじ】


【01】ヒジャはひとりで生きていこうと決心し、ジョンアは夫に世界一周旅行に連れていってもらうのを楽しみにしている。母のナニに強引に同窓会への運転手にさせられたワンは老人たちの騒々しさに辟易。さらに、ナニと犬猿の仲のヨンウォンが来て、取っ組みあいの喧嘩に…。

【02】ナニは30年前に夫の浮気現場を目撃し、不倫を知っていたヨンウォンをいまだに恨んでいるのだった。一方、ワンは母の言いなりになることにうんざりしていて、ヨナからの電話に涙を流す。ヒジャは認知症が心配でジョンアと一緒に検査を受け、妄想性障害と診断される。

【03】ヒジャは自殺を図ろうとするものの警察に止められた。家族に連絡をするというが、ヨンウォンがその場を収める。一方、ヨナは障害の話を避けるワンに「脚が恋しい」と語る。ついに夫にキレたジョンアはヒジャと車で母のいる老人ホームへ向かうが、人を轢いてしまう…。

【04】ヒジャとジョンアは横たわる老人を見て逃げだした。一方、ワンとヨナはたがいに愛を口にするが、よりを戻しはしない。ヒジャは教会で「人を殺しました」と懺悔。ワンが服の血に気づき、事故現場でジョンアを見つけた。ヒジャとジョンアはワンを待たず警察に自首する。

【05】2人が轢いたのは鹿だった。一方、ヨンウォンはナニに癌を打ち明ける。ソンジェの家で同窓会。チュンナムはソンジェにときめきを感じていた。目の前で事故に遭ったヨナを思い出し、雨に打たれて泣くワン。ドンジンが彼女にキスをするのをチュンナムとヨンウォンが…。

【06】ワンはドンジンに甘えたことを後悔。ヨンウォンはジョンアにスニョンが夫のDVに遭っていることを伝えた。ソッキュンが夫のもとへ押しかけて暴れ、警察に連行される。ソニョンのおかげで釈放されたが、謝ることはできない。一方、ジョンアの母が海辺で息を引き取る。

【07】ワンは母たちの小説を書くことを決意した。ソッキュンはソンジェに相談し、オ教授に5億ウォンを要求。ソニョンはアメリカへと旅立った。一方、ナニはチュンナムからワンが不倫していると知らされて出版社へ。ドンジンがワンのおでこに口づけるのを見てショックを…。

【08】ドンジンはワンへの気持ちを整理すると伝えたが、不倫を確信したナニはドンジンのもとに怒鳴り込む。一方、ジョンアが離婚を決意。ヒジャは同居を断られて機嫌を損ねた。ヒジャとソンジェの旅行をチュンナムが止める。ワンはヨナが障害者になったとナニに打ち明ける。

【09】心中しようとした過去を問いつめられたナニは怒って出ていった。しかし、ワンは部屋で待ち続け、母を責めて暴れる。一方、チュンナムは身を引くことを決意。ヒジャとソンジェは旌善へ旅行に出かけ、一泊することに。ようやくヨナに謝ったワンはヨナに会おうと空港へ。

【10】ヒジャとソンジェは朝日を見ながら手をつなぐ。一方、ヨナはワンを冷たく突き放したが、ワンは必ずまた来ると告げて帰国した。チュンナムが誰にも連絡がつかないまま自宅で倒れるが、サンブンの機転で病院に運ばれた。法事を終えたジョンアがこっそり家を出ていく…。

【11】新しく買った家で暮らしはじめたジョンアは娘たちに責められても黙りとおした。一方、ワンはみんなを集めて小説の取材をはじめ、真実の姿を書こうと決意する。ジョンアの家出を信じないソッキュンだったが、ジョンアに断固とした態度で拒絶され、ソンジェの前で泣く。

【12】ジョンアは娘たちが父を責めることは許さない。一方、ヨンウォンはデチョルと再会して涙を流す。みんなで暮らそうとヒジャ宅に試しに一泊。ワンはそれを観察する。ジョンアに旅行を断られたソッキュンはワンに過去の過ちをすべて語る。ナニが母と一緒に検診を受ける。

【13】ソッキュンが料理をつくって訪ねてくるが、ジョンアは流産の話に激怒。一方、ヒジャは夜ごと教会で祈りを捧げていた。ソンジェはヒジャが認知症と気づき、チュンナムに相談。ジョンアは信じられない。ナニは肝臓癌を宣告された。その頃、ヒジャはひとりで歩き続け…。

【14】姿を消したヒジャをソンジェらが必死で捜しはじめる。母の認知症を知ったミノは涙。一方、ヨンウォンはナニの癌を知ってデチョルを見送るのをやめた。ワンは初めて弱さを見せたナニと旅行へ。ヒジャが見つかるものの、ジョンアに「息子を返して!」とつかみかかる…。

【15】誰にも迷惑をかけたくないヒジャは老人ホームへの入居を主張するものの、ひとりで暮らせない事実に号泣。ジョンアが泣きながら抱きしめる。一方、ナニが手術のため入院。ワンの前に突然ヨナが現れるが、手術中のサインが早く消えたことに動揺するワンは素通りする…。

【16】ヒジャは生まれた孫を抱き、ナニの手術は成功した。ワンはナニの用意した航空券でヨナに会いにいく。一方、老人ホームに入居したヒジャはジョンアを呼び出して旅へ。ところがガス欠。みんなを呼んで合流する。それからも7人は旅行を楽しむ。ワンは笑顔で見つめる。終

2017年4月30日

かけはし

 2001年1月26日、JR新大久保駅。韓国人留学生のイ・スヒョンさんが線路に転落した人を助けようとして亡くなった。第1章「I am a Bridge!」では、日韓の懸け橋になろうとした彼の生涯を関係者インタビューで辿り、日本全国から両親に寄せられた弔慰金をもとに発足した奨学会の留学生支援活動、その奨学金を受けた留学生の姿を追う。第2章「かけはし~足跡をたどって~」では、日韓国交正常化から50周年にあたる2015年、釜山から来日した22人の大学生がイ・スヒョンさん所縁の地を訪ね、日本人と交流した1週間の旅に密着する。

 2001年に新大久保駅のホームで亡くなった韓国人留学生を軸に、日韓関係について考察していくドキュメンタリ映画です。あれからもう16年。痛ましい事故でした。
 第1章では事故の連絡を受けた当時のことを両親が語ります。あまりにもつらい場面でした。その一方で第2章の日本人家族と親睦を深める学生たちは希望を感じさせてくれました。日韓交流に懐疑的な青年が出てきますが、彼も同世代の日本人と語りあうことで変わっていきます。簡単に理解できないからこそ知ろうとする姿に考えさせられました。
 しかし、それぞれ章のエンディングには統括プロデューサーの歌が流れるという……。しかも「あなたを忘れない~♪」というベタすぎる歌詞。その想いを映画という作品で表現したのではないのでしょうか。これは蛇足というしか……。

かけはし

2017年/日本/95分(42分+53分)/2017年2月4日公開
http://kakehashi-movie.net

監督 中村柊斗

2017年4月10日

第3の愛

香港から上海へのフライトの途中、チージョン(ソン・スンホン)は機内で号泣する女性を見かけた。それは弁護士のユー(リウ・イーフェイ)。数日後、ユーは妹のユエ(モン・ジア)が自殺を図る原因となった勤務先の社長を訪ねるが、その彼こそがチージョンなのだった。さらに、建設作業員の労災金をめぐる騒動でチージョンが現場に駆けつけると、担当弁護士としてそこにいたのがユーだった。偶然の出会いが重なり、チージョンはユーに惹かれていく。そして結婚を前提に交際したいと告げるが……。

 身分違いの恋という、とりたてて目新しさのない悲恋物語。監督のイ・ジェハンは『私の頭の中の消しゴム』のあと、日本の原作を日本人キャストで撮ったりしてますが(『サヨナライツカ』)、今回は純然たる中国映画です。ソン・スンホンの台詞は吹き替えで、設定上もまったくの中国人。彼が演じる必要はあったのでしょうか……。とはいえ役者を美しく撮るのがイ・ジェハン監督の関心事のような気もして、その点では優れた手腕を発揮しているといえそう。昭和の二枚目と呼びたくなるような正統派のソン・スンホンですから、ますます古典映画を観ているようでした。音楽も大仰ですし。リウ・イーフェイも華美ではなく清楚な雰囲気の美人で、ぴったりですね。2人の熱愛が発覚しましたが、お似合いだと思います(映画とは関係ないけど)。
 ところで、ユー(リウ・イーフェイ)の妹のユエ役を演じてるのは元miss Aのジアだったんですね! ずっと「どこかで見たことのある顔だなぁ」と思ってたんですが、モン・ジアという本名を目にしてもピンときてませんでした。映画は初ですが、グループ脱退後は中国で女優として活動してるとのこと。ストーカー的な痛々しい役どころですが、うまいものです。
 タイトルの「第3の愛」ですが、原題も『第三種愛情』で、劇中に“3つの愛”について3度出てきます。冒頭のナレーションで「童話のなかの愛は甘いだけ、現実的な愛は退屈なだけ、そして……」と、最後に幸福なデート中のチージョン(ソン・スンホン)の言葉として「涙を流す女、女の涙を拭く男、そして……」と、いずれも3つめは観客に委ねるかたちでした。が、どれもよくわかりません……。もうひとつの(たぶん筋とは関係のない)ジェンチー(オウ・ハンシェン)の「愛を3種に分けてみろ」というお題にユーが答える「合法、違法、無法」はうまいなぁと思ったんですけど。

2017年3月31日

音痴クリニック

音痴のドンジュ(パク・ハソン)が高校時代から想いを寄せるミンス(チェ・ジニョク)と再会。同窓会のその場のノリで結婚式の祝歌をうたうと約束してしまった。あわてて音痴クリニックに駆け込むが、担当となったのは不潔で冴えない講師のシノン(ユン・サンヒョン)。「10年で最高の音痴」と呆れるシノンと衝突しながらもドンジュは音痴を克服しようと必死に特訓を重ねるが……。

 パク・ハソンがかわいい、それに尽きるんじゃないでしょうか。黙ってれば清楚な美人なんですが、「ハイキック3~短足の逆襲~」(その後「恋の一撃 ハイキック」に改題)を彷彿とさせるようなブッ飛んだところもあったりして。天然の愛らしさを存分に堪能できます。
 ところで、ロックバンドの白頭山(本物!)のライヴにゲスト出演するシノン(ユン・サンヒョン)ですが、前座じゃなくて、客席をあっためてもらったあとに新曲を披露するってどういう地位にいるの!? バックの演奏までしてもらってるし! かつてはプロの歌手だったという設定だとしても、唐突すぎて、なんだかなぁ……。