2014年2月19日

長雨

 朝鮮戦争のさなか、父方の祖母と暮らす少年トンマン(チェ・ヨンウォン)の家に、ソウルから母方の祖母(ファン・ジョンスン)の一家が疎開してきた。外叔父にあたるキルジュン(カン・ソグ)は国軍の勝利を信じているが、父の弟であるスンチョルは攻めてきた人民軍の手先となった。やがてキルジュン(イ・デグン)は国軍の志願兵となり、戦死。ひとり息子を亡くした外祖母は嘆きのあまり「こんなアカの家」と叫び、もうひとりの祖母(キム・シンジェ)と反目しあうようになってしまうのだが……。

 2014年2月17日、女優のファン・ジョンスンが亡くなったそうです。ユ・ヒョンモク監督『金薬局の娘たち』『長雨』、キム・スヨン監督『浜辺の村』、イ・ドゥヨン監督『避幕』あたりが代表作でしょうか。200作以上に出演してきた大ベテランです。追悼の意を込めて『長雨』を再鑑賞。以前に観たのは2005年、東京国立近代美術館フィルムセンターで開催された「韓国リアリズム映画の開拓者 兪賢穆監督特集」での上映だったと思います。今回は2009年に韓国で発売されたDVD-BOX『ユ・ヒョンモク コレクション』収録のHDリマスター版で観たのですが、印象よりもずっときれいな映像でした。

 ひとつの家族、2人の祖母の対立をとおして南北分断という悲劇を描いた作品です。冒頭の歯が抜ける悪夢や終盤の蛇の鮮烈なイメージ、ファン・ジョンスンの迫力の演技の印象などはあったのですが、正直なところ、それほどストーリーをはっきりと覚えてはいませんでした。最初に現在のシーンが描かれて、過去をはさんで再び現在とその後のシーンになるので、初めてだとちょっと戸惑うかもしれません。
 なんといってもこの作品で存在感を放っているのが外祖母役のファン・ジョンスン。冒頭で悪夢にうなされた鬼気迫る表情を見せたり、息子を亡くして呆けていたかと思いきや人民軍を呪うかのように叫んだり……。ご冥福をお祈りしたいと思います。
 ちなみに、このなかではトンマンの母役を演じたソヌ・ヨンニョが現在もドラマを中心に活躍してますね(「シットコム ファミリー」とか)。パルチザンになるスンチョル役のイ・デグンも、だいぶ出演は減ったものの現役です。祖母たちの対立もそうですが、スンチョルとキルジュンもけっして憎しみあっていたわけではなく、イデオロギーの違う場所に身をおいたために悲劇を迎えてしまいます。ある意味で愚直なスンチョル、イ・デグンがぴったりですね。
 また、子どもたちがわりと冷静なのが印象的でした。それから、性的な表現とまではいきませんが、なんか生々しい描写がところどころにありますね。なぜか外祖母が「おちんちんは元気かな」と孫のパンツに手を入れるとか、近所の少女がトンマンに胸を触らせるとか、トンマンが若い叔母と寝るときに自然と胸に手をやるとか。なんとなく印象に残ったのでした。もちろん、なまめかしく執拗に描写する蛇も忘れられませんが。
 そういえば、この作品は外祖母の「歯が抜ける」という悪夢からはじまりますが、ユ・ヒョンモク監督の代表作『誤発弾』(61)でも「歯が痛い」というのが繰り返されてましたね。

『長雨』ポスター
なぜかイ・デグンが主役のようなポスター
長雨 장마
1979年/韓国/124分
監督:ユ・ヒョンモク
原作:ユン・フンギル
脚本:ユン・サミュク
撮影:ユ・ヨンギル
照明:キム・テソン
音楽:ハン・サンギ
美術:チョ・ギョンファン

チェ・ヨンウォン……トンマン
ファン・ジョンスン……トンマンの外祖母(母方の祖母)
キム・シンジェ……トンマンの祖母(父方の祖母)
キム・ソックン……キム・スング トンマンの父
ソヌ・ヨンニョ……トンマンの母
イ・デグン……キム・スンチョル スングの弟
イ・ジョンエ……スングの妹
カン・ソグ……キルチュン トンマンの母の弟
チュ・ヘギョン……キルジャ トンマンの母の妹

1980年 第19回大鐘賞 優秀作品賞、撮影賞
1980年 第4回黄金撮影賞 撮影賞 銀賞

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