2016年11月20日

12番目の補助司祭

2015年の『プリースト 悪魔を葬る者』の元となった短編映画。ぜひ観たいと思っていたところ、Vimeoで日本からも視聴することができました。英語字幕付き、48時間以内のレンタル(=ストリーミング視聴)が242円で、購入が606円です。
 悪魔祓いの儀式に向かうところから一度は逃げだしたアガトが再び悪魔祓いに臨むところまで、ほぼ構成は同じ。キャストが地味だったり、お金がかかってなさそうだったり(血を吐くシーンなどはやっぱり迫力に欠けたり)はするものの、それだけ、すでに完成されていたということでしょう。第12回アシアナ国際短編映画祭で「短編の顔」賞、第13回ミジャンセン短編映画祭で絶対悪夢部門の最優秀作品賞、第15回大邱短編映画祭では大賞と撮影賞(キム・テス)を受賞しています。
 アガトのトラウマは違っています。長編では幼い頃に亡くした妹と自分自身が出てくることで深みがあって、その後のキム神父の台詞もすごくいいものになってましたが、短編では、ある軍隊での出来事。兵役そのものが韓国ならではですが、さらに内容的にかなり強烈なものでした。どちらも捨てがたいところです。

12番目の補助司祭

原題 12번째 보조사제
2014年/韓国/25分

監督・脚本 チャン・ジェヒョン

イ・ハクジュ……アガト
パク・チイル……キム神父
イム・ソンミ……ヨンシン


12th Assistant Deacon (12번째 보조사제) from Central Park Films on Vimeo.

2016年11月19日

プリースト 悪魔を葬る者

女子高生のヨンシン(パク・ソダム)が轢き逃げに遭い、さらに病室から投身自殺を図った。キム神父(キム・ユンソク)は何かに取り憑かれていると確信し、ヨンシンを救うため、悪魔祓いを行うと宣言する。神学生のアガト(カン・ドンウォン)が補助司祭に抜擢されるが、学長(キム・ウィソン)はキム神父の行動を監視するよう命じていた。他の神父たちは型破りなキム神父に疑いの目を向けていたのだ。キム神父とアガトは危険な悪魔祓いに臨むが……。

 韓国には珍しい、エクソシズム=悪魔祓いを描いた映画。
 なかなかグロテスクな描写も多いのですが、観客動員は500万人を突破。韓国人、すごいですね。わさわさとゴキブリが這い出してくるところとか(CGだろうけども)勘弁してほしいんですが……。とはいえ、108分があっという間。終盤のアクションシーンもすさまじい勢いで、目が離せず、チャン・ジェヒョン監督は長編デビュー作とは思えない演出力を見せてます。元になった短編『12번째 보조사제(12番目の補助司祭)』が2014年の全州国際映画祭・韓国短編コンペティション部門で監督賞を受賞してるそうで、なるほど。次回作も楽しみです。
 悪魔に憑かれたヨンシン役を演じるパク・ソダムもまたすごい。百想芸術大賞をはじめ、いくつもの新人賞に輝いたのも納得。鬼気迫る演技とはこういうことでしょう。撮影のために丸刈りにする心意気も。そしてやっぱり、カン・ドンウォンが美しいですね。アガトはあるトラウマを抱えていて、それを克服する過程も物語の軸といえるでしょう。一方のキム・ユンソクが演じるキム神父は、アガトの心の傷を抉るような言葉を浴びせるデリカシーのない感じの粗野な男ですが、ヨンソンのために涙を流す一面ももっています。それに、戻ってきたアガトに「おまえは悪くない」と語りかける言葉も利いてました。教会からすれば厄介者でしかありませんが、心根はやさしい人物なのだとわかります。
 ちなみに、カン・ドンウォンとキム・ユンソクが劇中で歌うのは、聖歌「復活のいけにえに(Victimae Paschali Laudes )」。エンドロールでも流れます。

プリースト 悪魔を葬る者

原題 검은 사제들(黒い司祭たち)
2015年/韓国/108分/2015年11月5日公開(韓国)
2016年10月22日公開(日本) 韓国映画セレクション2016 AUTUMN

2016年11月18日

サムネ

映画監督のスンウ(イ・ソノ)は、新作のシナリオ構想のため全羅北道の町、サムネを訪れた。そこで出会った神秘的な少女のヒイン(キム・ボラ)に惹かれていくが……。

 ポカーン。
 わけがわかりませんでした。会場のあちらこちらからいびきも聞こえてきました。空を舞う黒いビニール袋なんかに象徴的な意味が込められてるのかもしれませんが、さっぱり……。主人公が車中で読むヘッセの『デミアン』にヒントがあるのかなと思ったものの、妄想的なところがあるとはいえ、ピンときません。キム・ボラが大人っぽくなったなぁとか、イ・ヨンニョってやっぱり巫堂みたいな役かぁとか思うものの、難解すぎて何度も睡魔に襲われます。夢か現かという奇妙なイメージの連鎖する作品でした。
 タイトルの삼례/サムネとは地名で、漢字で書くと「参礼」。全羅北道完州郡参礼邑が舞台です。全州国際映画祭の支援を受けているそうで、町おこし的なものかもしれませんが、これを観て訪れたいと思うかは……。
『どのように別れるか』が直前に上映中止となったので、コリアン・シネマ・ウィーク2016で唯一の日本未公開作。ある意味では目玉だったわけですが、これかぁ……というのが正直なところですね。しかし、カン・サネが本人役で友情出演していて、「라구요」を歌うのにはびっくり。そのタイトルを日本語字幕では「そんなふうに」としてましたが、北に想いを馳せる両親の言葉を引用したあとに続く言葉なので「…だってさ」くらいがいいんじゃないでしょうか。


サムネ

原題 삼례(サムネ)
2015年/韓国/94分/2016年6月23日(韓国)
コリアン・シネマ・ウィーク2016にて日本初上映

監督・脚本・編集 イ・ヒョンジョン

イ・ソノ……スンウ
キム・ボラ……ヒイン
イ・ヨンニョ……ヒインの祖母
クォン・ジェヒョン……ヒインの兄
コ・グァンジェ……卑屈な男
ノ・シホン……鶏屋の主人
キム・ヒョンチョル……プロデューサー
キム・ドガム……助監督
カン・サネ……カン・サネ

2016年11月17日

奇跡のピアノ

目の見えないユ・イェウンは、3歳のときに母の口ずさんだ歌をピアノで演奏しはじめ、たちまち天才少女ともてはやされるようになった。母はイェウンをピアニストにするため時に厳しく練習させる。やがてイェウンはコンクールに出場するが……。

 優れた聴覚と音感をもつ盲目の少女と彼女を支える両親の喜怒哀楽を綴ったドキュメンタリ映画。
 ナレーションはパク・ユチョン。8年前に音楽番組で共演したことがあるそうで、イェウンのピアノ伴奏で歌ったのだとか。エンドロールのクレジットには名前のあとに「才能寄附」と明記。韓国でよく使われる言葉で、ノーギャラの声の出演ということになります。わざわざ書くことかなぁと思わなくもないですが……。
 途中で、イェウンは「本当のお母さん」のことが知りたいと言いだします。そう、彼女は実の子ではないのでした。母のパク・チョンスンは、生後1ヶ月のときに一時的にイェウンを預かったのですが、障害のため里親は現れなかったのだそうです。彼女は障害者施設を運営しています。夫のユ・ジャンジュも交通事故による脊髄損傷であらゆる日常生活に要介助。それでも笑顔を絶やさず、たくましく暮らしています。イェウンの質問に「私はお母さんじゃないの? いっしょに住んでるのがお母さんでしょ」と答えます。目が見えないことに対しても「見えなくても生きていけるでしょ? みんな違ってる」と諭します。「痩せてる人もいれば、太ってる人もいるでしょう。お母さんみたいに」と笑わせて。
 しかし、つらい場面も少なくありません。仲のいいヒョンジに「大きくなったら見えるようになるかな」と尋ねたりしますが、イェウンには先天的に眼球がないのです……。また、よく理解してくれる人ばかりではありません。コンクールに向けて特別レッスンを受けることになるのですが、その先生、イェウンにこんなことを言います。
「楽譜どおりに弾かなきゃダメでしょう」
 イェウンは楽譜を読めないんですよ……。先生が帰ったあとにイェウンは悔し涙を流します。
 その一方で、ピアニストのイ・ジヌクとの出会いはイェウンの才能を伸ばします。初めて会った日、イェウンが感じた気分をピアノで表現させ、それに続けてイ先生が曲を展開、それを再びイェウンが継いで……と繰り返します。まるで会話をするかのように。イェウンが物語性のある音楽を生みだすことに気づき、イ先生は「うらやましい」とまで言います。そして自分のコンサートに特別ゲストとして招き、ふたりで作曲した「白雪姫と七人のこびと」を演奏するのでした。
 テレビで“5歳の天才モーツァルト”と紹介されたのはカン・ホドンがMCを務めるバラエティ番組「スターキング」。2007年3月3日に放送された第8回ですね。画面には若々しいハハがちらっと映ってました。

奇跡のピアノ

原題 기적의 피아노(奇跡のピアノ)
2015年/韓国/80分/2015年9月3日公開(韓国)
2016年10月22日公開(日本) 韓国映画セレクション2016 AUTUMN

監督 イム・ソング
ナレーション パク・ユチョン

2016年11月9日

ひと夏のファンタジア

第1章 First Love, Yoshiko(初恋、よしこ)
 映画監督のテフン(イム・ヒョングク)が次回作の構想を練るため五條市にやって来た。彼はミジョン(キム・セビョク)の通訳で観光課職員の友助(岩瀬亮)に案内してもらう。

第2章 Well of Sakura(桜井戸)
 女優の仕事に悩みを抱えるヘジョン(キム・セビョク)が五條を訪れた。観光案内所で声をかけてきた柿農家の友助(岩瀬亮)と次第に打ち解け、帰国前夜、花火大会に誘われるが……。

 劇場公開時も見逃してしまって、ようやく新大久保映画祭で観ることができました。
 なら国際映画祭「NARAtiveプロジェクト」の2014年度作品で、奈良県五條市を舞台とする日韓合作映画。現地の一般人へのインタビューを交えたドキュメンタリタッチの第1章と、韓国人と日本人の出会いを描いたフィクションの第2章からなります。ホン・サンスっぽくもありますが、あちらほど不条理ではなく、わかりやすい構成といえるでしょうか(深読みもできるのでしょうけども)。第1章は全編モノクロで、テフンが煙草を吸いに外へ出て振り向くと、夜空に打ち上げ花火が広がってカラーの第2章へとつながります。鮮やか。昔ながらの喫茶店、寂れた山奥の村、廃校になった小学校といった場所、韓国人を案内したことがあるという友助の話、ケンジ(康すおん)の韓国人留学生との恋といったエピソード……などなど、第1章で映画監督のテフンが見聞きしたことが、第2章のモチーフになってます。
 主演のキム・セビョクと岩瀬亮はそれぞれ2役を演じてる(岩瀬亮の役は同名ですが、設定が違う)わけですが、気づかない人もいたとか。たしかに、だいぶ印象は違いますね。余談ですが、この作品の、特に第2章の岩瀬亮ってピョン・ヨハン(とりわけドラマ「元カノクラブ」での彼)に似てると思いました。
 第2章も即興的に撮影したそうで、ドキドキ感がたまらないクライマックスは、それぞれに別のディレクションをしていたんだとか。なるほど。順撮りだそうですし、ある意味ではドキュメンタリ的といえるかもしれませんね。どこか切なく、夢のようでもありつつ、やっぱりリアル。「ひと夏のファンタジア」というタイトルがぴったりです。
 イ・ミンフィによる音楽もすごくいいですね。特にエンディングで流れる「ひと夏のファンタジア」。歌詞に韓国語と日本語が混在する、はかなげな雰囲気のアコースティックな楽曲です。菊地成孔は「この曲を聴くためだけでも、本作を観るべきだ」とまで書いてました。

ひと夏のファンタジア

原題 한여름의 판타지아(ひと夏のファンタジア)
2014年/日本・韓国/97分/2015年6月11日公開(韓国)
2016年6月15日公開(日本) http://hitonatsunofantasia.com/

監督・脚本 チャン・ゴンジェ

キム・セビョク……パク・ミジョン/ヘジョン
岩瀬亮……武田友助
イム・ヒョングク……キム・テフン
康すおん……ケンジ

2016年11月5日

ケチュンばあちゃん

海女のケチュン(ユン・ヨジョン)は幼い孫娘のヘジ(キム・ゴウン)と済州島で慎ましくも幸せなに暮らしていた。ところがある日、市場でヘジを見失ってしまう。
 ――12年後、ヘジが見つかったと連絡が入る。実母に連れ去られ、ばあちゃんは死んだと聞かされていたのだという。ケチュンとふたりで暮らしはじめたヘジは、高校に通うようになり、幼い頃から好きだった絵の才能を美術教師のチュンソプ(ヤン・イクチュン)に見いだされる。しかし、ソウルで開催された美術コンテストの会場で再び姿を消してしまう……。

 ベテランのユン・ヨジョンと、若手実力派のキム・ゴウン。安心なふたりの主演で、切なくも、あたたかな気持ちにさせられる作品でした。ぶっきらぼうながらヘジの才能を伸ばす美術教師役のヤン・イクチュンも、いいたたずまいをしてますね。
 もっとも気になるのがヘジの正体なわけですが、はじめは詐欺師なのかと思ってしまいました。本人でなければ知らないはずの幼い頃の思い出をちゃんと語るものの、何かを隠してるようで……。それが、ひねりの効いた、それでいて納得の設定。やられました。そして、ケチュンばあちゃんの最期の言葉は真実を知ったうえでも思いやりにあふれたもの。終盤は泣かずにいられませんでした。
 ちなみに、タイトルにある할망(ハルマン)は済州方言だそうで、 할머니(ハルモニ)、つまり「おばあさん」のことです。
 SHINeeのミノも出てることですし、日本でも劇場公開されるといいですね。

ケチュンばあちゃん

原題 계춘할망(ケチュンばあちゃん)
2015年/韓国/116分/2016年5月19日公開(韓国)
第29回東京国際映画祭にて日本初上映

2016年11月4日

あなた自身とあなたのこと

ソウル、延南洞。画家のヨンス(キム・ジュヒョク)は、恋人のミンジョン(イ・ユヨン)が酒を控える約束を破っていると聞き、彼女と言い争いに。ミンジョンは「距離をおきましょう」と去り、ヨンスは後悔する。その一方で、ミンジョンはジェヨン(クォン・ヘヒョ)にもサンウォン(ユ・ジュンサン)にも声をかけられるが、人違いと言い張っている。やがてヨンスはミンジョンを見つけるが……。

 ホン・サンス節、健在。もちろん唐突なズームも。
 今作は、イ・ユヨン扮する不可解なヒロイン、ミンジョンがとりわけ印象的。彼女は誰に対しても「人違い」と言いますが、本当に別人なのだったらSF的なファンタジーですし、本人がそう思い込んでいるのだとしたらある種の病的なもの、すべてが芝居なのだとしたらかなりコワい話です。正解のヒントはまったくなく、まるっきり観客に委ねられているところがホン・サンスらしいおもしろさだと思います。
 ヨンスは「初めて会ったときのよう」と新鮮な気持ちでミンジョンに向き合いますが、それでいいのかよ!と思いつつも、「(相手のことを)知ってるつもりになって失敗ばかり」というヨンスの言葉にはなかなか深いものがあります。人生の教訓と受け取ることもできますし、ハッピーエンドといえばハッピーエンド。これは観る人によってだいぶ違ってくるんでしょうね。また観ると印象も変わりそうです。日本でも劇場公開されるといいのですが。

あなた自身とあなたのこと

原題 당신자신과 당신의 것(あなた自身とあなたのこと)
2016年/韓国/86分/2016年11月10日公開(韓国)
第29回東京国際映画祭にて日本初上映