2019年3月2日

金子文子と朴烈

1923年、東京。文子(チェ・ヒソ)は「犬ころ」という詩に心を奪われた。その詩を書いたのは朝鮮人アナキストの朴烈(イ・ジェフン)。共鳴した2人は同居誓約を結び、不逞社のメンバーとともに社会を変えるべく行動する。ところが9月1日、関東大震災が発生。自警団による朝鮮人虐殺が起こるが、その事実を隠蔽するため、水野内務大臣(キム・イヌ)は立松判事(キム・ジュナン)に朴を大逆罪で起訴するよう命じた。文子と朴は歴史的な裁判で法廷に立つことに……。

 平日の昼にもかかわらず、ほぼ満席。金子文子に興味をもって図書館で関連書籍を借りようとしましたが、どれもみな貸し出し中でした。予想以上の反響を呼んでいるようです。
 なんといっても文子役を演じたチェ・ヒソが最高。幼い頃に日本に住んでいたことはあるそうですが、ほとんど完璧な日本語で、日本語訛りの朝鮮語まで使いこなします。たくましく、それでいて悪戯っぽい笑顔を見せたり、たまらなくキュート。イ・ジェフンももちろんいいんですが、チェ・ヒソが魅力的に演じた文子が圧倒的に印象に残ります。原題は『朴烈』ですが、この邦題は正解ですね。
 それともうひとり、立松判事役のキム・ジュナンが素晴らしい。在日コリアンのイ・サンイル弁護士役を演じた『HERSTORY』で驚いたのですが、本作でも流暢な日本語を使ってます。でも日本で暮らした経験は3ヶ月ほどしかないとか。すごいのは言葉だけでなく、文子と朴に向きあいながら時に揺れていく姿が絶妙です。2018年にはドラマ「時間」でメインキャストを担いましたが、今後もますます期待したい俳優ですね。
 シリアスな物語ではありますが、2人の主人公にはユーモアがあり、ときどきクスッと笑える場面も。文子の「消え失せろ!」「静かにしろ!」といった啖呵は痛快です。司法大臣や警視総監があっさり辞職するとか、日本政府の面々は滑稽だったり。
 そして、単純に日本が悪というのではなく、日本人のなかにも心ある者がいたことははっきり描かれてますし、朴自身にも「日本政府は憎いが、日本の民衆にはむしろ親近感を覚える」という台詞がありました。今こそ観るべき映画。全国順次公開中ですが、さらに上映館を拡大してロングランを続けてほしいものです。

金子文子と朴烈

原題 박열(朴烈)
2017年/韓国/129分/2017年6月28日公開(韓国)
大阪アジアン映画祭2018にて日本初上映(『朴烈 植民地からのアナキスト』)
2019年2月16日公開(日本) http://www.fumiko-yeol.com

監督 イ・ジュニク(『ソウォン/願い』『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』)
脚本 ファン・ソング(『容疑者S』『私は王である!』)

チェ・ヒソ……金子文子
イ・ジェフン……朴烈[パク・ヨル]
キム・イヌ……水野錬太郎 内務大臣
キム・ジュナン……立松懐清 予審判事
横内祐樹……藤下 市谷刑務所の看守
山野内扶……布施辰治 弁護士
金守珍……牧野菊之助 裁判長
趙博……内田康哉 外務大臣
柴田善之……山本権兵衛 総理
小澤俊夫……田健治郎 司法大臣兼農商務大臣
佐藤正行……平沼騏一郎 司法大臣
金淳次……若槻礼次郎
松田洋治……江木翼
武田裕光……検事
チョン・ジュノン……キム・ジュンハン 不逞社のメンバー
ミン・ジヌン……ホン・ジニュ 不逞社のメンバー
ペ・ジェギ……チェ・ギュジョン 不逞社のメンバー
チェ・ジョンホン……チョン・テソン 不逞社のメンバー
ハン・ゴンテ……栗原一男 不逞社のメンバー
ユン・スル……新山初代 不逞社のメンバー
クォン・ユル……イ・ソク 記者

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