2018年6月30日

お父さんの剣

 2018年の「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」で鑑賞したのは、この1本のみ。「アジアインターナショナル&ジャパン」内の特別上映という扱いで、日本の『午後の悪魔』『The Band's New Stage』、インドの『偽りの赤』と併映されました。さすがに完成度は段違い。しかし投票の対象ではないのでした。ちなみに、チャン・グンソクの『偉大なる遺産』が上映された「アニバーサリープログラム」は即満席だったようですね。
 作品画像として紹介されるのはたいていク・ヘソンのカットですが、いちばん知られた出演俳優だからなのでしょう、実際には脇役です。イ・ヒジュンも。そして、ラブホテルから出てくる中年カップルの女性はムン・ソリという、見過ごしてしまいそうなカメオでした。
 ファンタジーをからめた少年の成長物語といった作品。ゲーム世界の剣を実際に山で見つけますが、位置情報ゲームアプリのような(「ポケモンGO」みたいな)感じです。劇中のオンラインゲームは実在するもので、当時は正式なサーヴィス開始前だったネクソン社のMMORPG「アステリア」 http://astellia.nexon.com です。
 いじめっ子のほうがおなじみの顔(『王の運命』や『隠された時間』のイ・ヒョジェ)ですが、主役のチョ・ウチャンは人気番組「SHOW ME THE MONEY 6」で小学生ラッパーとして有名になったそうです。山を登りながら口にするラップがやたらうまいなと思ったら、そういうことだったんですね。


【あらすじネタバレ注意】中学生のテシク(チョ・ウチャン)はサンミン(イ・ヒョジェ)らにいじめられている。ある日、父親が職場で倒れて入院。病室には大勢の見知らぬ人がやって来るが、年齢も職業もバラバラの彼らはオンラインRPGをプレイする仲間で、「お父さんはすごい人です」と語りだす。チェ・ゲバラというIDで参加するテシクの父は“君主”としてみんなを率いる英雄なのだという。そして、テシクが君主の剣を受け継ぐべきだと言いわれる。呆れた母は怒るが、テシクはひとり智異山の老姑壇へ。そこで剣を発見する。再びサンミンらにいじめられるが、テシクは剣で4人をなぎ倒し、さらにそれをソンミンに突きつける。その頃、病院では父が意識を取り戻していた。駆けつけたテシクは窓辺に立つ“君主”の姿を見る。

2018年6月29日

奇跡の夏

わんぱく盛りの小学生ハニ(パク・チビン)にとって、物静かな兄のハンビョル(ソ・デハン)は格好のいたずら相手だった。ところがある日、頭が痛いと言っていたハンビョルが入院。脳腫瘍に侵されていた。母(ペ・ジョンオク)は泣いてばかりで、父(パク・ウォンサン)は冗談も言わなくなった。病院では同じ病気のウク(チェ・ウヒョク)が兄と親しくなっていく。ハニは兄に元気になってもらおうと大切な遊戯王のカードをあげるが、ハンビョルはそれをウクにあげてしまった。ハニはウクのことが気に入らず……。

 十数年ぶりに観ましたが、やっぱり涙なしには観られません……。すごく印象に残っていたのが、ウクの母(オ・ジヘ)がトイレの洗面台に溜めた水に顔をつけて泣き、ハニの母(ペ・ジョンオク)にも勧める場面なのですが、今回もそこがグッときました。親の気持ちになると
 もちろん、子役たちの熱演もそれぞれ素晴らしいです。パク・チビンはニューモントリオール映画祭の主演男優賞を最年少受賞。母を笑わせようとRain(ピ)になりきって踊る場面ではキレのあるダンスを見せたりも。そして、兄弟が物語の中心ですが、もうひとりの主人公ともいえるのがウク(チェ・ウヒョク)ですね。3年も闘病してるのにいつも笑顔。健気すぎます。
 ちなみに【以下ネタバレ】、原題は『안녕, 형아』で、劇中にそのままの台詞が出てきますが、ハニではなくウクの台詞なのでした。韓国語の안녕(アンニョン)には「こんにちは」と「さようなら」の意味がありますが、終盤で「안녕, 형아. 안녕」と繰り返し、日本語にするとすれば「やぁ、兄ちゃん。さよなら」と言ってるんですね。ターザンおじさんの“奇跡の水”を必死の想いで汲んできたハニがきっかけとはなってますが、ウクがハンビョルに命を授けたかのような、物語のクライマックスです。
 実話が元になっていて、原作はキム・ヘジョンが息子の闘病を綴ったエッセイ『悲しみが希望に』。本作の脚本家のキム・ウンジョンは彼女の妹なんだそうです。甥の物語をシナリオにしたわけですね。子どもらしいファンタジーを織り交ぜ、悲しいだけではない、明るさを感じさせる良作でした。

2018年6月28日

赤ちゃんと僕

高校生のジュンス(チャン・グンソク)は毎日のようにトラブルを起こしている問題児。あまりに手を焼いた両親は10万ウォンだけを残して姿を消した。そんなジュンスのもとに、ウラムという赤ん坊(ムン・メイスン)が現れる。ジュンスの子だと手紙が添えられていて、仕方なく面倒をみることに。クラスメイトになったビョル(キム・ビョル)に協力してもらいながらウラムの世話をするが……。

 日本の同名漫画とは関係ないんですね。
 赤ちゃんは本当にジュンスの子なのか?というのが最大の気になるところ。彼の前に現れるのが子だくさんな家のビョルということで、それが伏線なのかと思うのですが、真相は意外な方向から明らかになります。これはこれでアリですね。かわいい赤ちゃんの声を当ててるのが芸人のパク・ミョンスというのが、やややりすぎ感はあるものの、ウケます。
 ソン・ハユン(この当時は改名前のキム・ビョル。役名も同じ)がかわいい。もっと掘り下げてほしいキャラクターでした。

2018年6月27日

角砂糖

済洲島の牧場で生まれ育ったシウン(キム・ユジョン→イム・スジョン)は馬が大好き。生まれてすぐに母を失った子馬のチョンドゥンに愛情を注ぐが、ある日、チョンドゥンは人手に渡ってしまった。それから2年。シウンは念願だった騎手になるが、レースでは八百長を強いられ、馬を大事にしない調教師に失望し、辞めてしまう。ところが、思いがけずチョンドゥンと再会。ユン調教師(ユ・オソン)と理解ある馬主のノ会長(ペク・イルソプ)のおかげで復帰したシウンは、チョンドゥンとともに勝利を目指すが……。

 動物には泣かされてしまうものですね。
 馬の名前の「チョンドゥン」は「雷」という意味。천둥で、漢字だと「天動」なんですね。韓国語の雷には3種類あって、천둥は音のするもの。번개は光るもの、つまりは稲妻・稲光などを指すそうです。そして「雷が落ちる」といったときの「落雷」を指す場合は벼락。ややこしい……。
 劇中に流れるのはチョ・ドンジン(조동진/1947-2017)の「제비꽃(すみれ)」で、1985年の3集に収録されているヒット曲。エンディングではイム・スジョンが歌ってます。
 幼い頃のシウン役を演じるのは当時まだ6歳のキム・ユジョンでした。かわいい。

2018年5月17日

タクシー運転手

1980年5月、タクシー運転手のマンソプ(ソン・ガンホ)は、10万ウォンという大金につられてドイツ人記者のピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せて光州に向かう。戒厳令下の光州へ続く道は通行禁止となっていたが、機転を利かせて検問をくぐり抜け、2人は光州へ。そこでデモに参加している大学生のジェシク(リュ・ジュニョル)と出会い、ピーターは撮影をはじめる。マンソプはソウルで留守番をしている11歳の娘が気になり、不穏な空気に包まれた光州を早く立ち去ろうとするが……。

 民主化を求める光州市民を戒厳軍が武力で鎮圧して多数の死傷者を出した「光州事件」の実話をもとにした作品。韓国では1,200万人を動員する大ヒットを記録しました。
 序盤で突然、東京タワーが映って驚きましたが、ピーターは日本駐在の記者だったんですね。そこで隣国との連絡が途絶えたという話を耳にして――おそらくは功名心から――身分を偽って韓国に入国します。あまりの惨状に茫然としていたところマンソプに叱咤されてハッとする場面があるので、使命感は最初からあったわけではなく、次第に生まれていったんじゃないでしょうか。
 丸腰の市民に銃弾を浴びせるなんていくら軍人でも躊躇しないのかと思いますが、そうした描写はいっさいありません。まったくもって情け容赦ない。映画をわかりやすくするための演出かと思いきや――まだまだ上映中なのでネタバレを避けるため詳しくは書きませんが――終盤のある人物の行動によって、すべての軍人がそうだったわけではないのだろうということがわかります。
 また、うまいというかズルいというか終盤にはカーチェイスまであって、実はここが泣ける場面になってます。このへんの史実と娯楽のバランスをどう受け止めるかによって好き嫌いは分かれるでしょう。「あざとい」と見る向きもあるかもしれません。が、チョ・ヨンピルのヒット曲「おかっぱ頭」の軽快な音楽にはじまって、ソン・ガンホのコミカルなキャラクターに笑いつつ、いつの間にか過酷な現実を突きつけられている、見事な作品だと思いました。
 ところで、マンソプが別れ際の車中で目に留めたマッチ箱にある「キム・サボク」を偽名として書きますが、それがモデルとなった実在の人物の名前ですね。事件の4年後に他界していたと息子さんが映画公開後に明かしたそうです。一方のユルゲン・ヒンツペーター(通称ピーター)は映画の完成も見ず2016年に他界。残念ながら2人が再会することは叶いませんでした。

2018年5月16日

風と共に去りぬ!?

朝鮮時代後期、右議政の庶子であるドンム(チャ・テヒョン)は気楽な日々を過ごしていたが、ある日突然、身に覚えのない反逆罪で捕らえられてしまった。採氷を取り締まる生真面目なトンス(オ・ジホ)も左議政の反感を買って牢にやって来る。その後、ドンムは放免されるが、代わりに父が流刑に処された。すべては氷の独占を企む左議政(ナム・ギョンウプ)の策略なのだった。ドンムはチョ一族への復讐を誓い、氷の強奪を計画。トンスをはじめ、あらゆる分野の玄人を集めて作戦を開始する。

 安心して楽しめるチャ・テヒョン作品ですが、この作品の場合はチャ・テヒョンのキャラというよりも、個性的な仲間たちのアンサンブルが楽しいところ。耳が遠い爆弾エキスパートのテヒョン(シン・ジョングン)、変装の達人で毎度必ず「誰だよっ!」と言われるジェジュン(ソン・ジョンホ)らがひっきりなしに笑わせてくれます。ソクチャン役のコ・チャンソクとチョングン役のチョン・ボグンは『ハロー!?ゴースト』でもチャ・テヒョンと共演してますね。そこにオ・ジホとは意外な気もしますが、その好対照なところがおもしろい結果を生みました。
 細かいところにツッコミを入れるのは野暮というもので、何も考えずに楽しみたい、痛快な娯楽作。イ・サンをはじめ、ペク・トンスやチョン・ヤギョンなど、それぞれが主人公のドラマも制作されている実在の人物が多数登場するのもおもしろいところです。ちなみに、最後の最後にソン・ジュンギが特別出演。チャ・テヒョンやコ・チャンソクのいるBlossom Entertainmentに移籍したからですね。

2018年5月15日

5人の海兵隊員

ドクス(シン・ヨンギュン)は、父のオ中佐(キム・スンホ)が大隊長をつとめる部隊に小隊長として赴任した。オ中佐は息子を歓迎するが、ドクスは幼い頃からいつも兄ばかり溺愛してきた父に複雑な気持ちを抱いている。やがて部隊の末っ子としてかわいがられていたヨンギュ(ナム・ヤンイル)が偵察中に命を落とし、ドクスら5人の海兵隊員は奇襲作戦の特攻隊に志願する。

 韓国文化院で行われる韓国映画の企画上映会、2018年4~5月は「1950~60年代に製作された名作韓国映画特集」。そこで初めてこの作品を観ました。
 キム・ギドク(『悪い男』などの監督とは同名異人)の監督デビュー作で、1962年の第1回大鐘賞で新人賞を受賞した作品。さすがに古い感じは否めませんが、朝鮮戦争に父と子のメロドラマをからめているのが興味深いところ。なんとそこには出生の秘密があるんです! 唐突な展開で、韓流ドラマのようでした。
 今のベテラン俳優の父親が何人も出演しているのも興味深いですね。チェ・ムリョンはチェ・ミンスの、パク・ノシクはパク・チュンギュの、トッコ・ソン はトッコ・ヨンジェの、キム・スンホはキム・ヒラの父。ちなみに、ユン・イルボンはオム・テウンの義父にあたります。
 ジュハン役を演じているフライボーイは、ずいぶん奇抜な名前ですが、声帯模写で人気を集めたコメディアンなのだそうです。その後、クリスチャンになって芸能界を引退し、アメリカで神学を勉強して牧師になったとか。

韓国映像資料院のYouTubeチャンネルで全編視聴可。英語および韓国語の字幕アリ。
https://www.youtube.com/watch?v=gUbG3wQ9GtQ