目覚めると外見が変わってしまうウジンは、唯一の友人であるサンベク(イ・ドンフィ)とオーダーメイドの家具ブランドを起ち上げ、他人と深く関わることなく過ごしている。ところがある日、インテリアショップで働くイス(ハン・ヒョジュ)に恋をした。思いきってデートに誘い、同じ顔を保つため3日も寝ずに彼女と会う。イスもウジンに惹かれていくが、眠ってしまったウジンは再び外見が変わり、二度とイスの前に姿を見せることができなくなってしまう……。
TOHOシネマズ新宿にて鑑賞。
日本版チラシのコピーにあるとおり「見た目と中身、本当に大切なのは…」というのがすべて。それだけ聞くとあまりに陳腐ですが、主人公が123人1役という奇想天外な設定で、前代未聞のファンタジックなラブストーリーになってます。
123人1役というのは、主人公のキム・ウジンが、寝て目が覚めると性別や年齢のまったく異なる人物になるからです。まったくもなってありえないわけですが、劇中では(ややネタバレですけど)遺伝性の病気ということになっていて、母親もすんなりと受け入れます。パク・ソジュンやユ・ヨンソク、イ・ヒョヌといった若手の人気俳優から、キム・サンホ、ペ・ソンウのような個性派、はたまたコ・アソンといった女優まで、豪華なキャストが次々と演じまていきます。
いちばんおもしろかったのが、上野樹里のパート。日本人になってしまったので、話す言葉は日本語です。イスは日本語がなので(店で日本人客への応対もこなしてました)つい日本語で返してしまうのですが、ウジンのほうは日本語を理解できるわけではありません。韓国語で考えてはいるのだけれど口から出てくるのは日本語になってしまうということですね。なんか、リアル。荒唐無稽だからこその細やかな設定が効いてます。
また、友人のサンベクが本当にウジンなのか確認するため、ウジンでなければ答えられないであろう質問をいろいろとしますが、決定的になるのが「俺の好きな日本の女優は?」。「あおい……」と言いかけるので、普通は蒼井優を思い浮かべるわけですが、答えは「蒼井そら」。これでサンベクは確信します。おばちゃんがAV女優を知ってるわけがない、と。こんなところもうまいですね。ウジンが美女(扮するのはパク・シネ)になったとき、サンベクが「1回だけやらせてくれ」と懇願するところにも共感します(笑)。
監督のクレジットは「ペク」。本名はペク・チョンヨルというようですが、記号的というか、匿名的な名前が流行なんでしょうか。『ネコのお葬式』の原作者は「ホン作家」でした。CMやミュージックビデオで活躍するディレクターだそうで、これだけのキャストを集められるのもそうした経歴があってこそなのでしょう。2013年のカンヌ国際広告祭でグランプリを受賞したインテル&東芝によるソーシャルフィルム『The Beauty Inside』が原案だそうです(日本からもdynabookのウェブサイト
http://dynabook.com/pc/film/ から参加可能なキャンペーンでしたが、すでに動画は閲覧できません)。
127分とやや長めですが、単純計算すると1分ごとに主人公が変わるわけで(実際はエキストラのような扱いで一瞬しか出ないケースもありますが)めまぐるしく変化する場面に見入ってしまい、あっという間でした。ハン・ヒョジュの透き通るような美しさもあって、さわやかな恋愛模様。ユニークすぎる設定ですが、ある意味、正統派のラブストーリーといえるのではないでしょうか。