2009年11月27日

キム氏漂流記

 都会のド真ん中で漂流生活という奇抜な発想のヒューマン・コメディです。
 監督はイ・ヘジュン。これまでイ・ヘヨンとの共同で『品行ゼロ』(02)『ARAHAN』(04)の脚本、『ヨコヅナ・マドンナ』(06)の監督を手がけてきましたが、これが単独での監督デビュー作となりました。
 借金を苦に投身自殺を図ったキム・ジュングン(チョン・ジェヨン)が、ソウル中心部を流れる漢江のパム島に流れ着いてしまいました。携帯電話はバッテリ切れ。助けを呼ぼうと遊覧船に手を振るものの、笑顔で手を振り返されるばかり......。死ぬつもりだったのに「急ぐことはない」とサバイバル生活を開始したジュングンは、スワンボートを寝床に、潰したペットボトルをサンダルに......と、なんだかんだで快適な無人島生活を満喫するようになります。流れ着いた廃品でゴルフを楽しんだりも。ところが、チャパゲッティ(インスタントのチャヂャン麺)の空き袋を見つけたことから狂おしい想いが......。チャヂャン麺が食べたいっ! 鳥のフンから種を取り出して畑に蒔いて、トウモロコシを育てることに執念を燃やします。
 そんなジュングンを見つめるひとりの女性がいました。キム・ジョンヨン(チョン・リョウォン)は対岸のマンションに住む、ひきこもりの女性。部屋には内側から頑丈な鍵をかけ、散乱するゴミに囲まれて生活しています。窓から月を撮影することを趣味としているジョンヨンが、ある日、島で暮らす奇妙な男を発見し、興味をもちはじめるのでした。そして彼にコンタクトをとろうと意を決して数年ぶりに家を出るのですが......。
 浮世離れした漂流生活は実際にありえそう。一方、ひきこもり生活のほうがファンタジックに描写されます。月に思いを馳せると身体がふわふわ浮いたり、妄想の世界がそのまま描かれるのです。ユーモラスな音楽といい、生々しい現実的な物語をちょっとシュールな感覚で描いたところが好きです。
 次第に変わっていくジョンヨンの表情も秀逸でした。最初は生気のない、うつろな表情。それがときおり笑みをこぼすようになり、最後には泣きじゃくりながら疾走するのです。年に2回の民間防衛訓練が"特別な日"と語られていましたが、実はそれが大きな伏線。クライマックスを盛り上げてくれるのでした。
 登場人物はほぼ主人公の2人のみですが、ジョンヨンの母親役としてヤン・ミギョン(「宮廷女官チャングムの誓い」ハン尚宮役や「がんばれ!クムスン」クムスンの母役など)が特別出演してます。中盤に登場する中華料理店の出前持ちを演じてるのは「魔王」で"本物の"オ・スンハ役だったパク・ヨンソ。『ヨコヅナ・マドンナ』でも中華料理屋の息子、毎日のようにチャヂャン麺を食べてるという役どころでしたね。
 主人公の男性も女性もキム氏で、キム氏は日本でいえば鈴木さんや佐藤さん。現代人なら誰もが"漂流"しうるという意味が込められているのでしょう。そんななかでのコミュニケーションへの渇望が大きなテーマとなっているようです。
 それにしてもチャヂャン麺が食べたくなりますね。

キム氏漂流記キム氏漂流記 김씨 표류기
韓国/2009年/116分/2009年5月14日公開(韓国)
http://www.kims2009.com/(韓国)
韓国映画ショーケース2009にて上映 http://filmex.net/kfs/2009/

チョン・ジェヨン......キム・ジュングン
チョン・リョウォン......キム・ジョンヨン
パク・ヨンソ......出前持ち
ミン・ギョンジン......マンションの警備員
チャン・ナミョル......バスの運転手
ヤン・ミギョン......女キム氏の母 ※特別出演

【監督・脚本】イ・ヘジュン
【製作】キム・ムリョン/キラキラ映画社
【製作総指揮】カン・ウソク
【撮影】キム・ビョンソ
【照明】シン・ギョンマン
【音楽】キム・ホンジプ
【美術】火星工作所
【編集】ナム・ナヨン
【配給】シネマ・サービス



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