2009年12月20日

Re: 玄海灘

 映画『玄海灘は知っている』の原作――というか、1960年にラジオ・ドラマとして発表され、翌年に映画化および小説化とのことなので、厳密には原作小説とはいえないのかもしれません。1968年には連続ドラマ化もされた模様。
 著者はハン・ウンサ(韓雲史)。学徒出陣や日本体験をもとにドラマを手がけてきた脚本家です。自伝的な大河小説で、主人公の阿魯雲(ア・ロウン)という名前は『阿Q正伝』の"阿"、魯迅"魯"、自分の名前から"雲"を取ってつけられ、aloneにかけてるとのこと。その後、第2部『玄海灘は語らず』、第3部『勝者と敗者』と続き、完結したのは1963年3月です。
 この邦訳『玄海灘は知っている』はすでに絶版のようで、Amazonのマーケットプレイスではけっこうなコレクター価格がついてました。

 映画とは異なる箇所が多く見られます。365ページ(しかも2段組)という長編ですから、117分に収めた映画とは違っていて当然ですけどね。
 特にラスト・シーン。まるでゾンビのような主人公の復活シーンは観客に笑いをもたらしましたが、原作では軍から脱走し、秀子とともに彦根を目指すところで終わります。あれほど衝(笑?)撃的な展開はありません。
 また、キャラクター設定も映画では簡略化されてるようで、とりわけ古参兵の森は描写が異なります。映画では単純な憎ったらしい悪役ですが、原作ではより奥行きのある人物として描かれてました。もちろんイヤな奴には違いないのですが、阿魯雲が命を救ってしまったり情けをかけたりしてしまうような、ある意味、人間臭いキャラクターです。
 昭和18年に実施された「半島人学徒特別志願兵制」で半ば強制的に徴兵された多くの朝鮮人青年たち。彼らの知られざる実態が描かれてます。日本軍の面々も画一的な描写にとどまらず、いろいろな人がいたことが(当たり前ですけど)わかります。とても読みごたえのある作品でした。

玄海灘は知っている――阿魯雲伝
韓雲史/村松豊功・訳/角川書店/1992年/2,548円

【関連記事】
自由コラム・グループ 玄海灘は知っている
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月刊アリラン「日本における韓国近代史の現場」第84回
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Iza【外信コラム】ソウルからヨボセヨ 合掌・韓雲史さん
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2 件のコメント:

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    はじめまして。
    トラックバックしようと思ったのですが、拙ブログにはトラックバック機能がないので、コメント欄にて失礼いたします。
    http://senkichi.blogspot.com/2009/11/1.html
    後ほど、『玄海灘は語らず』『勝者と敗者』も交えた記事を書こうと思っております。
    ご笑覧下されば幸いです。

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  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    ご訪問ありがとうございます。当方は原作を駆け足で読んでしまった感じでお恥ずかしいかぎりなのですが......。『玄海灘は語らず』『勝者と敗者』を交えた記事、楽しみにしております。ブログへのリンクを張らせていただこうと思います。

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