2009年10月21日

玄海灘は知っている

 第22回東京国際映画祭で復刻上映された"怪物"キム・ギヨンの『玄海灘は知っている』。タイトルは「玄界灘」ではなく「玄海灘」です。傑作『下女』の翌年、1961年に製作された作品で、5分ほど音声が失われている2ヶ所、7分ほどフィルム自体が消失している1ヶ所は字幕で説明が補われていました。ところどころフィルムの損傷が著しくひどいのですが、貴重な上映であることは間違いないでしょう。
 舞台は1944年の名古屋。前年に実施された「半島人学徒特別志願兵制」によって半ば強制的に徴兵された朝鮮人青年たちがやって来ます。そのうちのひとりであるア・ロウン(キム・ウンハ)は、小柄ではあるものの反骨精神が旺盛で、要注意人物としてマークされています。"日本軍の伝統"として森上等兵(イ・イェチュン)から理不尽な暴力を受け、差別に苦しめられます。しかし、そんななかでも中村上等兵(キム・ジンギュ)のような理解ある上司と出会い、やがて中村の姪である秀子(コン・ミドリ)と出会い、2人は恋に落ちるのでした。
 といっても、みんな韓国人(コン・ミドリ=孔美都里は在日コリアンらしい)で韓国語。最初はちょっと戸惑ってしまいますね。え~っと、この人は日本人?と。
 その後、ロウンは最前線へと送られることになりますが、妊娠した秀子とともに逃亡することを決意。しかし、名古屋はアメリカ軍による激しい爆撃で火の海となり、2人は離ればなれになってしまいます。そしてロウンは死体の山のなかで意識を失ってしまいました。日本軍は爆撃の被害を隠すため、国家機密として犠牲者の遺体を焼却しようとします。そこには灯油を浴びせられるロウンの姿も......。彼は生きているのでしょうか、死んでいるのでしょうか......。火葬場に人々が押し寄せ、まだ生きているかもしれない家族を見つけだそうと軍と激しい押し問答を繰り広げます。そこには秀子の姿もありました。大混乱のなか、ついに火が放たれます。と、そのときです! 焼きただれた身体を起こすロウン! 彼は生きていたのです! それを見た群衆は有刺鉄線を押し倒して死体の山へと駆け寄ります。そのなか、ロウンと秀子はしっかりと抱き合うのでした。
 ロウンが立ち上がったときは観客から笑いが漏れました。まるでゾンビ! 衝撃的です。火の手はまだ遠いとはいえ全身に灯油を浴びてるわけで、抱き合ってる場合じゃないと思うのですが......。「女」シリーズで異様な迫力を見せつけてきたキム・ギヨン監督、最後の最後に"らしさ"を炸裂させました。トラウマになりそうなラスト・シーンです。
 主人公のア・ロウンという名前は劇中でも「そんな名前の奴ぁいない」と言われるほど珍しいものですね。漢字だと阿魯雲となるようです。原作の『玄海灘は知っている――阿魯雲伝』が角川書店から1992年に刊行されています(翌年には続編も)。著者のハン・ウンサ(韓雲史)は自身の学徒出陣や日本体験をもとにドラマを手がけてきた脚本家で、1966年から韓国放送作家協会会長をつとめたそうです。この作品もラジオ・ドラマ化されてるみたいですね。ちなみに2009年8月11日に86歳で亡くなりました。

玄海灘は知っている 현해탄은 알고 있다
韓国/1961年/117分/モノクロ/Digital Betacam
第22回東京国際映画祭「アジアの風」上映

キム・ウナ......ア・ロウン
コン・ミドリ......秀子
イ・イェチュン......森
イ・サンサ......井上
キム・ジンギュ......中村上等兵
チュ・ジュンニョ......秀子の母
パク・アム......ホン・ボンデ
パク・ノシク......猿渡中尉

【製作・監督・脚本】キム・ギヨン
【原作】韓雲史『玄海灘は知っている――阿魯雲伝』(角川書店/1992年)
【企画】キム・ヨンチョル、チェ・ドングォン
【撮影】チェ・ホジン
【照明】ユン・チャンファ
【音楽】ハン・サンギ
【美術】パク・ソギン
【編集】オ・ヨングン



2009年10月20日

牛の鈴音

 たった7館で封切られた作品が、口コミで瞬く間に話題となり、大手メジャー作品を抑えて2週連続興行成績1位を獲得。300万人を動員したドキュメンタリ映画です。韓国人の15人にひとりが観た計算になりますね。テレビ番組の演出家として活躍してきたイ・チュンニョルが3年あまりの月日をかけて完成させたデビュー作です。
 79歳になるおじいさん(チェ・ウォンギュン)は一頭の牛と30年もいっしょに働いてきました。牛の寿命は15年ほどといわれるのに、この牛はもう40歳。誰もが耕耘機を使うけれど、おじいさんは牛と働き、牛に与えるエサに飼料は使いません。だから牛が食べる草のために畑に農薬を撒くこともしません。60年も連れ添ってきたおばあさん(イ・サムスン)はそんな頑固な夫に不平ばかりです。「ラジオといっしょでポンコツだ」とか、笑っちゃうほど文句ばっかり。そんなある日、かかつりつけの獣医が「この牛は冬を越すことはできないだろう」と告げるのです......。
 この作品にはドキュメンタリにありがちなナレーションがいっさいありません。音楽もごく控えめ。場面転換の際にピアノの旋律が流れる程度です。押しつけがましさがまったくないのです。眠くなってしまいそうなほど、実に淡々としてます。
 日本でいえば『踊る大捜査線THE MOVIE』に匹敵する大ヒットなわけで、韓国では「牛の鈴音シンドローム」といわれる社会現象にまでなったそうです。が、もちろん泣けりゃいいってもんじゃありませんが、むちゃくちゃ号泣する感じではありませんでした。覚悟して行ったんですけど......。でも、ところどころ、じわ~っと涙の流れてしまうシーンがありました。しみじみとした感動が味わえます。
 ちなみに日本版の題字は菅原文太。農業生産法人を設立するなど、農業人としても活動してるんだとか。


牛の鈴音 워낭소리
韓国/2008年/78分/HD→35mm
2009年1月15日公開(韓国)
2009年12月、シネマライズ、銀座シネパトス他
http://www.cine.co.jp/ushinosuzuoto/

【監督・脚本・編集】イ・チュンニョル
【製作】スタジオ・ヌリンボ
【プロデューサー】コ・ヨンジェ
【撮影】チ・ジェウ
【音楽】ホ・フン、ミン・ソユン
【配給】インディ・ストーリー

2009年10月19日

なんでウチに来たの?

 奇しくも原題がまったく同じ映画『うちにどうして来たの?』を観た日(昨日)が、ドラマ「なんでウチに来たの?」の最終回でした。
 わがままな娘ミス(イ・ソヨン)のために頑固な資産家(チュ・ヒョン)が入り婿を募集。病床の母を抱えるギドン(キム・ジフン)が恋人に内緒で"逆玉"を狙うのだが......という物語。前半はけっこうドタバタでした。ミスのせいでパンツ一丁で街を走らされるギドンとか、怪我で手が使えずトイレにも行けずに身悶えするミスとか、大爆笑。ところが、後半はミスの元恋人ガンジェ(キム・スンス)やギドンの恋人ボッキ(オ・ユナ)がからむラブストーリーになっていきます。そのへんの迷走が評判を落としたのか、視聴率は振るわなかったようですね。でも、ぼくはけっこうおもしろく観ました。ガンジェはけっして悪い人じゃないから切ないし、さらに悪いところのないボッキが切なすぎます。オ・ユナ、この作品でもさばさばした役どころで、イイですね。恋に破れた2人も最後は晴れ晴れとした感じで後味は悪くありません。初めて作品を観るキム・ジフン、キム・スンスと似ててややこしいとか思いましたけど......。
 イ・ソヨンは憎まれ役や悪女役が多い印象ですが、「空港男女」(『まぶしい一日』)のドジなヒロインとか好きです。本作での短めの髪型が似合ってますね。ショートパンツ姿が多くて、美脚を堪能できます。好感度がアップしました。
 しかし! 最終話で突然、チュ・ヒョンが消えたのが謎です。認知症を患ったミスの父、隣の部屋にいる設定なのに、姿は出てこないんです。すごく不自然。出てきたと思ったら、手元が映るとか、うしろ姿のみ。しかも恰幅が違うからあきらかに別人! 体調を崩して降板といった話は聞きませんが、いったい何だったんでしょう!? あまりにも視聴率が悪くて投げた!? これだけは許せませんねぇ。

なんでウチに来たの? 우리집에 왜왔니
全20話/SBS/2008年3月28日~5月30日
演出:シン・ヨンソプ/脚本:イム・ソニ
→公式ウェブサイト
日本では衛星劇場にて放送→公式ウェブサイト
DVDはエプコットより2009年5月29日発売

キム・ジフン......チョ・ギドン
イ・ソヨン......ハン・ミス
キム・スンス......イ・ガンジェ ミスの元恋人
オ・ユナ......チャン・ボッキ ギドンの恋人
チョン・ジュナ......チョ・スドン ギドンの兄
イ・ヘスク......キム・ミスン ギドンの母
チュ・ヒョン......ハン・ジンテ ミスの父
キム・ジョンナン......ハン・ドクス ミスの姉
イム・ホ......キム・テピョン ドクスの夫
ハン・ダミン......ハン・ウンス ミスの妹
キム・ドンゴン......カン・イロ ウンスの恋人
ソン・オクスク......パク・スネ ガンジェの母
ヨ・ウンゲ......コン・オクチャ ボッキの祖母



2009年10月18日

うちにどうして来たの?

 毎年恒例のコリアン・シネマ・ウィーク、今年の観るべきはこの1作品のみでした。
 女性監督ファン・スアの長編デビュー作。CMのディレクターとして活躍し、イ・スンチョル「長い一日」(04/7集『長い一日』に収録)やメイダニ「わからないing」(09/『7teen』に収録)などのミュージックビデオも手がけてるそうです。
 物語はすでにスガン(カン・ヘジョン)が死体となって発見されたところからはじまります。警察で事情聴取を受けるビョンヒ(パク・ヒスン)の供述で過去が語られていくので、パク・ヒスンのナレーションが多め。ナレーションで物語を進めるのって好きじゃないのですが、さほど気になりませんでした。まったくもって不可解なスガンの行動の謎に迫っていくのに最適な方法だったのかもしれませんね。
 ビョンヒは3年前にある事件で妻を失い、自殺することばかりを考えている男です。いつも失敗ばかり。その日も首を吊って死のうとしていると、突然「ただいま!」と見知らぬ女性がやって来ます。それがスガンというホームレスの女性。ビョンヒを監禁し、双眼鏡で向かいの家を監視しています。次第に監禁生活に慣れていくビョンヒでしたが、隙を突いて形勢逆転。でも、ビョンヒは逃げだそうとせず(って自分の家ですから!)、やがて好奇心からスガンに手を貸そうとします。
 スガンが監視しているのは復讐したい相手。このジミン役を演じるのはBIGBANGのスンニ(日本ではV.I)ことイ・スンヒョンです。出番は少ないものの、重要な役どころ。下がった眉が、復讐するに値しない頼りなさを増長してて適役ではないかと思います。レンタルビデオ店のアルバイトという終盤のチョイ役で出てるのがムン・ジェウォン。「ビリー・ジーン 私を見て」のバンヒ(パク・ヒボン)の弟バンギ役、「アクシデントカップル」のドンベク(ファン・ジョンミン)の郵便局の後輩ユンソプ役で、いずれも頼りない印象の役どころ。本作でも飄々とした感じ。そのほかオ・グァンノクやチョ・ウンジが特別出演してます。
 整形(というか歯列矯正)をしたカン・ヘジョンの顔にはいまだに慣れません。でも、かわいいですね。細やかな表情の変化が愛らしいです。『トンマッコルへようこそ』なんかの純真無垢なキャラクターからそう遠くはありません。臭いけど(笑)。
 床に寝転がるスガンとソファで寝そべるビョンヒの顔を収めた構図、浴槽にもたれて髪を洗ってもらうスガンの顔を見下ろしたアングルなど、切り取り方がちょっと新鮮。ところどころファンタジーを織り込んだ演出があって、そういう映画にしかできない表現、好きです。ヒロインが死ぬことは最初に明示されてるわけですが、けっして後味も悪くなってません。
 ところで、内容的に関連性は皆無だから、2008年のドラマ「なんでウチに来たの?」と原題がまったく同じなのは偶然なんでしょうね。それにしても紛らわしいです......。ちなみに、原題にない「?」がついているものの、邦題はこちらのほうが直訳ですね。

うちにどうして来たの? 우리 집에 왜 왔니(うちにどうして来たの)
韓国/2009年/107分/2009年4月9日公開(韓国)
コリアン・シネマ・ウィーク2009上映

パク・ヒスン......キム・ビョンヒ
カン・ヘジョン......イ・スガン
イ・スンヒョン(スンニ)......ジミン
イ・デビッド......少年時代のジミン
アン・ビョンギュン......小さい刑事
イ・ドヒョン......大きい刑事
リュ・ヘヨン......ビョンヒの妻
ソ・ヨンファ......妻の妹
キム・モア......妻の妹
キム・コッピ......妻の妹
ムン・ジェウォン......レンタルビデオ店のアルバイト
オ・グァンノク(特別出演)......自殺する男
チョ・ウンジ(特別出演)......ホームレス

【監督】ファン・スア
【製作】オーガスト
【製作】チョ・オゴン、チョ・ヨンチョル、チョン・ソングァン
【プロデューサー】ウォン・ソニ
【企画】チョン・ソングァン
【脚本】キム・ジヘ
【撮影】パク・スンイン
【照明】パク・チュンギュ
【音楽】チョン・ジェヒョン
【美術】ラ・ヒョンギョン
【編集】シン・ミギョン


2009年10月17日

風の国

 今週やっと(?)「風の国」が終わりましたね。最初の頃はけっこうおもしろく観てたんですが、後半はなかば義務感にとらわれて観てたような......。
 オ・ユナはカッコよかったですねぇ。同時併行で「なんでウチに来たの?」を観てましたけど、作品ごとにキャラは違うものの、どれも好感度が高い役どころです。一児の母とは思えません。ステキ。
 バナナマンの日村勇紀にしか見えなかったマロ(チャン・テソン)は、幼なじみのムヒュル(ソン・イルグク)が太子になるとともに凛々しくなっていきました。しかし、終盤にはちょっとした恋のエピソードを盛り込んだり壮絶な最期を遂げたりしましたけど、それがどうも視聴率稼ぎの見せ場にしか思えません。切なすぎるトジン(パク・コニョン)でしたが、やっぱり「海神」のヨンムン(ソン・イルグク)には遠く及びません。
 まぁ、いちばんの難点は日本語吹替でした。やっぱりダメですねぇ。来週からはじまる「善徳女王」はおもしろそうなんですけど、パスします。

風の国 

原題 바람의 나라
全36話/KBS2/2008年9月10日~2009年1月15日
演出:カン・イルス、チ・ビョンヒョン
脚本:チョン・ジノク、パク・チヌ
原作:キム・ジン
→公式ウェブサイト
日本ではBSフジにて放送→公式ウェブサイト
DVDはポニーキャニオンより2009年7月1日~発売

ソン・イルグク......ムヒュル ユリ王の息子、のちの大武神王
チェ・ジョンウォン......ヨン 扶余の王族
パク・コニョン......トジン テソ王の寵愛を受けた扶余の王子
チョン・ジニョン......ユリ王 高句麗2代王、ムヒュルの父

チャン・テソン......マロ ムヒュルの幼なじみ
オ・ユナ......ヘアプ ムヒュルを育てる壁画工、のちの情報総監
パク・サンウク......クェユ ヘミョン太子の忠実な部下
キム・ジェウク......チュバルソ 街のごろつき、のちにムヒョルの仲間となる
キム・ジョンファ......イジ ムヒュルの正室
イ・ジョンウォン......ヘミョン 高句麗の太子、ムヒュルの兄
イム・ジョンウン......セリュ姫 ムヒュルの姉
キム・ヘソン......ヨジン ユリ王の四男
キム・ヘリ......ミユ夫人 ヨジンの母、ユリ王の后
キム・ミョンス......クチュ ユリ王に仕える忠臣
キム・チグク......テチョン ユリ王に仕える忠臣
キム・スンウク......アンスン ミユ夫人の弟
キム・サンホ......マファン 高句麗の奴隷商人
キム・ウォニョ......コンチャン マファンの部下
チェ・ウンギョ......ヨンビ
イ・イルファ......ソファ ユリ王の王后、ムヒュルの生母
イ・シヨン......ヨンファ
ハ・ウネ......ナムジ セリュの侍女
キム・ユジン......キヨン イジの侍女

ハン・ジニ......テソ王 扶余の王
パク・チョンハク......財部早衣サグ
ソン・ビョンホ......外使者タクロク テソ王の甥、ヨンの父
シン・ドンフン......チョガム

キム・ビョンギ......サンガ 沸流の首長、諸加会議の最長老
キム・ギュチョル......ミョンジン サンガの執事
チョン・ソンモ......ペグク
キム・ジュヨン......ファンナ

パク・コンテ......幼い頃のムヒュル
クォン・オミン......幼い頃のマロ
チョン・ダビン......幼い頃のセリュ

  

2009年10月16日

お宝探しin神保町

 たまに神保町の古書街を散策すると思わぬ掘り出し物に出会います。このあいだはほんの数ヶ月前の「映画秘宝」を1冊300円でゲットしました。
 今日は買いはしなかったんですけど、ブックス○南で、いわゆるワンコインDVDの『少女たちの遺言』を発見。こんなかたちで出てるとは......。2002年に発売されたものは廃盤となっていましたが、サード・パティ・エンタテインメントという会社から2008年に出たようです。オープン価格となっているのでどこでも500円というわけではないかもしれませんが、Amazonでも数百円で手に入るみたいです。ただ、ジャケがまるでカラーコピーのような品質で、画質もかなり心配になります......。女校怪談シリーズの第2弾で、第10回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(2001年)には『メメント・モリ』というタイトルで上映されました。ホラーというよりは青春映画で、いい作品だと思います。それだけにきれいな画質で観たいところですねぇ。
 それからヴィン○ージには映画『青燕』の日本語版台本が! 日本人俳優がたくさん出ているので、日本語版が存在するのも頷けますが、まさかこんなところに売られているとは。書き込みがあって、○原という役名に丸印がついてるんですけど、ということはその役をやった中○丈雄さんが売ったんでしょうか!? 2,000円というけっこうな値段がついてました。もちろん買ってませんけど。



2009年10月15日

ペ・ドゥナ―『空気人形を生きて』

 発売日、TSUTAYA鷺宮店に行ったら「近々にも入荷の予定はない」と言われ(本誌のバックナンバーもあるのに本当か!?)、当然ながら近所の小さな書店では取り寄せになると言われてしまいました。昨日はSHIBUYA TSUTAYAに行ってもなく、HMV渋谷店に行ってもなく、「もしやまだ出てない!?」と思ったのですが、BOOK 1st.渋谷店でようやく見つけました。
 さすがに読みごたえたっぷり! しかし「ユリイカ」という雑誌の特性上(?)難解な言葉もまたたっぷりです。聞いたこともない哲学者の言葉を引っ張りだしてきたり、なんだかペ・ドゥナをネタに言葉を弄んでるようにしか思えない論考もあります。誰に向けて書いてるんでしょう、こういうのって......。そんななか、画家・古谷利裕の「スウェットの女」はおもしろく読めました。ポン・ジュノ作品についての論考ですけど。
 ペ・ドゥナ自身による撮影現場での写真は貴重です。是枝裕和×山下敦弘の対談は、現場でのペ・ドゥナの様子がわかって興味深いですね。ちょっと物足りないような気もしますが。巻末のフィルモグラフィには知らなかった『TEA DATE』という短編映画についても触れられてました。ファンは必読でしょう!

「ユリイカ」2009年10月臨時増刊号
総特集ペ・ドゥナ――『空気人形』を生きて
1,300円(本体1,238円) 2009年10月13日発売
ISBN978-4-7917-0200-8

【インタビュー】
息をもらう、風になる 空気人形という生命の幸せ/ペ・ドゥナ[聞き手=宇野常寛]
【対談】
ペ・ドゥナ、おそるべき女優魂/是枝裕和×山下敦弘
【図版構成】
空気人形のいる世界
空気人形の見た世界/写真・文=ペ・ドゥナ
【論考】
��ミューズの光跡~
 勝手に逃げろ ペ・ドゥナと女優業の不思議な関係/野崎歓
 永遠のミスキャスト/佐々木敦
 たゆたうこと、泳ぐこと ペ・ドゥナという女優の特性について/木村満里子
��空気人形というエピファニー~
 「商品」 のアレゴリー 『空気人形』論/北小路隆志
 コスチューム・プレイヤーが世界を歌う ペ・ドゥナという身体とその機能/宇野常寛
 偶像(アイドル)の縫合線/石川義正
��韓流におけるペ・ドゥナ~
 ペ・ドゥナ、はずれの人生 韓流ドラマ正統からの逸脱/田中秀臣
 明けてゆくインチョンの空にグッド・バイ。/木村立哉
 チラシの中のペ・ドゥナ/池本幸司
��世界へとズレていく少女~
 スウェットの女 ポン・ジュノにおけるペ・ドゥナの存在/古谷利裕
 神と見紛うばかりの/横田創
 はき溜めのナウシカ/越川道夫
 この世界の中/外側で 『リンダ リンダ リンダ』へのまなざし/松井周
【資料】
ペ・ドゥナ フィルモグラフィー 映画篇/池本幸司・前田智也
ペ・ドゥナ フィルモグラフィー ドラマ篇/木村立哉