2017年2月13日

楽しい私の家


 セジョン(ソン・ヨウン)は夫のソンミン(イ・サンヨプ)と幸福に暮らしている。実はソンミンはセジョンの作り上げたサイボーグ。セジョンにとって理想の夫なのだ。ところがある日、ソンミンの前にジア(パク・ハナ)が現れ、「思い出して!」と訴える。セジョンはジアが現れたことを知って動揺。ついにジアが家に押しかけてくると、セジョンは事故に遭って記憶喪失となったソンミンを看病するうちに愛しあうようになったのだと言い張るが……。

 星新一のショートショートにありそうな、ブラックなユーモアで妙な後味の残るサスペンスでした。さすがにサイボーグという設定の描写には甘いところがありますが。
 主演のソン・ヨウンは「明日に向かってハイキック」でジフン(チェ・ダニエル)の見合い相手という役でした。短編だからというのもあるでしょうが、メインキャストを担うようになったんですねぇ。ジア役のパク・ハナは「白夜姫」でヒロインに大抜擢されましたけど(急な代役だったとか)、「金よ出てこい☆コンコン」では宝石店のキム代理、「ミス・コリア」ではドリーム百貨店のエレベータガールという、ほとんど端役でした。短編ドラマって、脇役マニアにはたまらないキャスティングで楽しいものです。
 主題歌の"I Will"をうたうのはJelly Cookieのソオ(서오)。「ドクターズ~恋する気持ち」のOSTにも参加してるようです。Jelly Cookieは女性デュオで「匂いを見る少女」のOSTで1曲うたってますが、メンバーはチョ・ウネ(조은애)とイ・ソヨン(이서영)。ソオというのは名前の近いイ・ソヨンのソロ名義になるんでしょうか。韓国でも「あまりに情報がない」と嘆かれてるようで、詳細不明。この曲も音源リリースはありません。


2017年2月12日

最終兵器 ムスダン

韓国と北朝鮮の国境に位置するDMZ(非武装地帯)の603セクターで部隊の失踪事件が発生。24時間以内に事態を把握するよう、チョ大尉(キム・ミンジュン)をはじめ、生化学兵器に詳しいシン中尉(イ・ジア)ら精鋭が集められた。ところが特任チームの作戦開始早々、ハン中士(キム・サグォン)の姿が消える。不穏な空気が漂うなか部隊が廃倉庫に辿り着くと、そこには北朝鮮軍が待ちかまえていた。しかし、本当の脅威は別にあり……。

 冒頭は『プレデター』を思わせる描写ではじまり、次々と兵士を襲う謎の存在が示唆されます。一人称視点の主観ショットが緊迫感を煽りますが、終盤、正体を現したときには……ずいぶんチープで、ある意味、衝撃的なのでした。
 ターゲットの始末を優先するチーム長のチョ大尉は何かを隠しているようで、一方のシン中尉も別の任務が与えられている模様。そしてまたチームの末っ子で19日後の除隊を待ち望んでいるノ兵長(キム・ドンヨン)も密かに何かを命じられていて……とサスペンスフル。
 タイトルの「ムスダン」は北朝鮮の開発した中距離弾道ミサイルの呼称で、発射基地があるとされている舞水端(ムスダン)の地名から。なのですが、ということは、この作品のストーリー上はそういうミサイルは存在していないということになりますね。ミサイルではない、ある“兵器”のコードネームなわけですから。
 B級映画をおもしろがれるかどうかが評価の分かれ目でしょう。キム・ミンジュン、元Click-Bのオ・ジョンヒョク、ユチョンの弟のパク・ユファンと女性ファンに目配せをしたキャスティングですが、いかにも低予算な印象。イ・ジアもなぜひさびさの映画にこれを選んだのか……。とはいえ、予想できる展開ではあるものの、シン中尉のアップになるラストショットはゾッとします。

2017年2月11日

真夏の夢


 マンシク(キム・ヒウォン)は男手ひとつで育てている娘のイェナ(キム・ボミン)の出生届を出すのが唯一の願い。ベトナム人女性と国際結婚でついに夢が叶うと思ったが、直前に断られてしまった。そんなある日、暴力を振るわれていた茶房嬢のミヒ(キム・ガウン)を助ける。ミヒが礼を言いに家を訪ねてくると、イェナは彼女を母親と思い込み、泣きながらしがみつく。マンシクは2000万ウォンで母親代わりを頼み、ミヒは金目当てで婚姻届と出生届にサインをするが……。

 ちょっと前までは悪役の多かったキム・ヒウォンが、いい人すぎるマンシク役を好演。ほんと、おひとよし。キム・ガウンも、やさぐれてはいるものの根に寂しさを抱えるミヒ役をうまく演じてますね。ミン・ドゥルレとは大違いですが(「一途なタンポポちゃん」で健気な主人公を演じてました)。
 脚本は2014年の脚本公募で入選したソン・セリン。オチの想像はつくものの、やさしさにあふれたハートウォーミングな一編でした。
 劇中に流れるのは자전거 탄 풍경(自転車に乗った風景)の"지금처럼 너와 같이"。映画『ラブストーリー』の主題歌「あなたにとって私は、僕にとって君は」で知られる3人組です。ジャタンプンという略称で日本でもリリースしてました。分裂しましたが、2011年に再結成してたんですね。

2017年2月8日

伝説のシャトル


釜山の明成高校にソウルからチャン(イ・ジフン)が転校してきた。彼は17人相手の喧嘩に勝利したという伝説の男。学校を仕切るテウン(ソ・ジフン)にも一目を置かれる存在となるが、ある日、クラスにもうひとりの生徒が転校してくる。そのジェウ(キム・ジヌ)はチャンと同じ高校からやって来たという。チャンはある理由から気が気じゃない……。

 チャンの態度から、ある程度の展開は読めるのですが、とにかく笑いっぱなし。そもそも“加里峰のスリッパ”というニックネームがよくわかりません(笑)。去勢を張ってるのがバレないよう、あの手この手でテウンを言いくるめる姿が滑稽です。ジェウが現れると彼のあわてぶりはますますエスカレート。ジェウがクールなだけに余計おかしいのでした。
 ミンス役の子がSPEEDのソンミンに似てるなぁと思ってたら、まさにそう。いつもおどおどしてる風采の上がらないパシリですが、眼鏡をとると美少年。やっぱりソンミンなのでした。
 特別出演陣も豪華で笑わせてくれます。担任教師役のユ・オソンの台詞が『友へ チング』(言わずと知れた彼の出世作にして名作)のパロディなのがウケます。「ハワイに行けば~」もそうですし、その後の「마이 묵었다. 아이가」はまったくそのまんまですね。日本語字幕には活かされてませんでしたが……。アナウンサー志望のチャンの叔父がチョン・ヒョンムというのにも爆笑(かつて局アナでした)。「テレビに出られる顔だと思ってるの?」となんて言われたりして。
 タイトルにある「シャトル」とは「パシリ」のこと。韓国で大人気だったオンラインゲーム「スタークラフト」の宇宙輸送船「シャトル」から来てるんだとか。KBS WORLDでは「伝説のシャトル(使い走り)」という括弧付きの邦題ですが、劇中の日本語字幕は「パシリ」。俗語をタイトルに入れることに抵抗があったんでしょうか。「伝説のパシリ」でいいのに。


2017年2月7日

真っ赤な先生


 1985年、慶尚道の女子高で教師をしているテナムは生徒から「変態」と嫌われている。ある日、テナムは『将軍夫人の危険な愛』という小説を手に入れ、夢中で読み耽る。それを拾ったスンドクから学校中に人気が広まるが、その本は物語の途中で「つづく」となっていて、2巻はどこにも見つからない。スンドクは続きを執筆し、それを知ったテナムも黙認して密かに楽しみにしている。ところが、その本は淫乱図書として禁書扱いなのだった……。

 タイトルの「真っ赤な」というのは、いわゆる「アカ」をかけてるんですね。スンドクの父親が民主化運動で捕まって自殺したという設定で、同級生の母親が「アカの娘と関わるな」と言う場面があったりします。終盤にはデモの風景もありました。時代設定が1985年から1987年で、盧泰愚の民主化宣言の頃までが描かれます。2015年のKBSドラマ脚本公募の当選作だそうで、映像化には多くの演出家の手が挙がったとか。
 物語として先生が最後には生徒を守るのだろうとは想像がつくものの、スンドクが教師扱いすることのなかったテナムをようやく探し当て、ある言葉をかけます。そのラストシーンにはうるっときました。うぶすぎる女子高生たちには大爆笑。ミジャはコンドームが何かわからず両親にしつこく尋ねて叱られ、挙句には隠した食べ物だろうとキレたり、スッキは恋人がポケットにバナナを隠してると思って股間に手を突っ込んだり(笑)。教室では誰も子どもができる仕組みを知らず、スンドクの話に大騒ぎ。今じゃ考えられませんが、当時だったらそんなものでしょうか。
 劇中に流れるのはApril 2ndの"그리워하네"。どのアルバムにも未収録で、調べてみたら、このドラマのための書き下ろしのようです。ナム・ヘスン(남혜승)音楽監督は「もう一度ハッピーエンディング」や「嫉妬の化身」でも彼らを起用してますね。あと、Queenの"Under Pressure"が流れたりもします。

2017年2月5日

The NET 網に囚われた男

北朝鮮の国境近くで妻子と平穏な毎日を送る漁師のチョル(リュ・スンボム)だが、ある日、船のエンジンに網が絡まり、韓国側へ流されてしまった。身柄を拘束された彼はスパイ容疑で尋問を受けることに。身のまわりの世話をするジヌ(イ・ウォングン)はチョルが潔白であると信じるが、調査官(キム・ヨンミン)は何が何でも自白させようと暴力も辞さない。チョルは妻子のもとへ帰りたい一心で耐え続けるが……。

 東京フィルメックスのチケットを取ったものの、予定が入っていて行けず……。劇場公開を待って、ようやくシネマカリテで鑑賞したのでした。
 衝撃的な作品を撮り続けるキム・ギドク監督ですが、これはやや描写がマイルド。とはいえ、南北分断のなか、現実にありそうな――実際、ただの漁師がスパイに仕立てられたことが何度もあるそうで――強烈な痛々しい物語です。ハッピーエンドはありえないだろうと思うわけですが、そこはやはり……。余韻の残るラストショットでした。
 ところで、亡命を説得する担当者役でソン・ヒョナが特別出演してます。売春斡旋容疑で起訴され、一審、二審で罰金刑を言い渡されてましたが、最高裁で無罪判決。これが復帰作のようです。2006年の『絶対の愛』以来、10年ぶりのキム・ギドク作品となりました。チョイ役ですが。

2017年2月4日

インサイダーズ 内部者たち

オ会長(キム・ホンパ)は大統領候補のチャン議員(イ・ギョンヨン)に裏金を流し、政界を牛耳ろうとしていた。その関係を裏で取り仕切るのは祖国日報の主幹であるガンヒ(ペク・ユンシク)。ガンヒのもとでのし上がろうとするサング(イ・ビョンホン)は裏金の証拠を入手して脅そうとするものの失敗し、腕を切り落とされてしまう。一方、後ろ盾もなく左遷された検事のジャンフン(チョ・スンウ)は、復讐心を抱えるサングに告発をもちかけるが……。

 劇場で逃してしまった『インサイダーズ 内部者たち』のBlu-rayがずいぶん安くなっていたので購入(なんとAmazonで1,091円)。
 あらためてイ・ビョンホンはすごいと思いました。韓流四天王と呼ばれた面々で唯一、衰えることなく作品に出続けてることも含め。まったくもって善人ではありませんが、愛嬌のある役柄で、特にオールバックにスカジャンの落ちぶれたチンピラ姿がカッコいいんです。ウネ(イエル)との関係はあまり深く描写されませんが、そこはかとなくうかがわせるところもいいですね。青龍映画賞、百想芸術大賞、韓国映画評論家協会賞で主演男優賞を受賞しました。
 チョ・スンウは3度もオファーを断ったとのことでしたが、それも大どんでん返しのための演出的な発言じゃないかという気がします。イ・ビョンホン&チョ・スンウという意外な顔合わせ。バディ・ムーヴィー的な一面もあって、とりわけラストシーンのふたりが最高でした。ちょっと名作漫画『サンクチュアリ』を思い出したりも。
 原作はユン・テホによるウェブトゥーン。2015年12月31日には『内部者たち:ザ・オリジナル』と題して180分の拡張版が公開されました。こちらは日本盤に収録されてないんですよね。どんなシーンが加えられてるのか、観てみたいものです。
 R指定にもかかわらず最速で600万人超、そして興行成績No.1に。とても万人受けする作品とは思えないのですが、そこまでヒットするとは驚きです。やはり韓国人にとってリアルだからなのでしょうか。腐敗した政治家、横暴な財閥……下劣な“ち〇こゴルフ酒”は説明するのも憚られるほどゲスの極み。銃が一丁も出てこない代わりに糸ノコギリと小斧というのもブッ飛んでます。
 痛快な娯楽作ですが、残酷な描写が少なくないので、苦手な方はご注意を。