2017年2月18日

平壌まで2万ウォン


 ヨンジョン(ハン・ジュワン)は司祭になる道をあきらめ、運転代行の仕事をしながら、その日暮らしの生活をしている。ある夜、神父になったジュニョン(キム・ヨンジェ)と屋台で呑むが、彼の帰った直後、いつの間にか隣にはソウォン(ミラム)が座っていた。自分のことを知っているという彼女に迫られ、ヨンジョンは一夜をともにするが……。

 しばらくどんな展開の話なのか読めなかったのですが、なるほど。ヨンジョンが信仰を捨てて母に反発する理由――つまりは父への想い――が、空港でジュニョンを問いつめる言葉になってるんですね。ヨンジョンは「神に通じる唯一の道は祈りです」という言葉が許せません。ジュニョンがソウォンと結ばれることが、自分の存在の肯定につながるわけです。うーん、深い。また、南北離散家族の話があったり、北の歌が励みになった(それで「平壌まで2万ウォン」という代行運転社の名前に)というエピソードがあったり。短い物語のなかに多くのことが詰め込まれてるのでした。
 ソウォン役のミラムってどこかで見たことあると思ったら、「ショッピング王ルイ」でおしゃべりなゴールドライン社員のヘジュ役ですね。かつてはキム・ミンギョンという本名で活動してたようですが、現在は芸名に。


2017年2月16日

3本足のカラス

1984年に初の詩集『労働の夜明け』を刊行し、労働者運動のカリスマとなったパク・ノヘ。1991年に拘束されてからも獄中詩人として活動を続けるが、オ・ジョンフン監督は、彼が労働詩人から環境活動家に転向したかのように感じている。彼の家族や仲間を訪ね、めまぐるしく変化する現代社会で彼の思想の実際性を問う。

 第8回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルの特集「アジアの波」で鑑賞。思いっきり鼾をかいて寝てる人もいましたが、たしかに何度も睡魔に襲われました……。「パク・ノヘに期待しすぎていた自分を恥じた」と監督のナレーションで締めくくったり、独りよがりというか、なんだかなぁというところが少なくありません。アフタートークで崔洋一監督も「おまえの内省は家に帰ってやれよ」なんて言ってましたが、まさに。
 ちなみに、20年も前の1997年作品ですが、最後に1998年8月15日に特赦で釈放されたことがスーパーが挿入されます。2011年にインディ・ドキュメンタリ・フェスティバルで上映されているようなので、そのときに追加したのでしょうか。
 中盤、パク・ノヘの詩に曲をつけているユン・ドヒョン・バンドのライヴ映像があります。たんに客席からステージを仰いでるだけので完全なる逆光でメンバーの顔はまったく判別できませんが……。ユ・ドヒョン・バンド(現YB)は1996年の結成なので(1集はユン・ドヒョンのソロ名義)、ごく初期のステージ映像になりますね。長髪(!)のユン・ドヒョンがコメントする場面もあって「若いうちは言いたいことを言う」などと語ってました。そのとおりかなりアグレッシヴな演奏で、わりと小さなハコですが、ファンも熱狂的な雰囲気。貴重映像です。曲は"이땅에 살기 위하여(この地に生きるために)"で、2集に収録されてます。

2017年2月15日

将軍様、あなたのために映画を撮ります

1978年、韓国を代表する女優の崔銀姫(チェ・ウニ)が香港で北朝鮮に拉致された。その後、元夫の申相玉(シン・サンオク)監督が失踪。まもなくそれは自身の意思による亡命と北朝鮮は発表していた。1983年に崔銀姫と申相玉は再会。金正日の信頼を得て申フィルムを設立し、2人が中心となって17本の映画を製作した。そして1986年、ウィーン滞在中にアメリカ大使館に亡命。申相玉は金正日の命で北朝鮮に拉致されたことを明かし、「宣伝活動に利用されていた」と語る。
 崔銀姫とその家族をはじめ、元CIA情報員やアメリカ国務省の元職員、映画評論家らへのインタビュー、密かに録音した金正日とのやりとりなどから、拉致事件の真相に迫るドキュメンタリ映画。

 劇場公開時に逃してしまい、第8回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルの「松江哲明セレクション」にて鑑賞。
 申相玉の手記『闇からの谺』を読んでるので事の顛末は知ってましたが、やっぱり肉声のやりとりは衝撃的。金正日と申相玉が「世界に通用する映画を」「帰れと言われても帰りませんよ」なんて親しげに話してるのです。身の危険を感じて仕方なくそう語ったのだとしても、潤沢な資金で自由に映画を撮ることができたわけで、どこまでが真実なのか……。本当に拉致だったのかは疑問視する声も多いそうです。アフタートークで松江哲明と町山智浩(アメリカからSkypeで参加)も語ってましたが、「悪い人に何をしてもいいと言われたら、そのときモラルは?」という問いも出てきますね。「芸術に魂を売った」映画監督と、そのそばにいた女優(で元妻)……モヤモヤとした感じは残ります。
 映画としては、劇中で語られる“ストーリー”がすべて申相玉作品からの引用で再現されているところが実におもしろいものでした。よくぞこれだけ集めてまとめたものです。
 冒頭で申相玉のインタビューテープが流れますが、流暢な日本語。この年代は当然ですが。日本統治下の1925年(1920年との説もあり)生まれで、東京美術学校(現在の東京藝術大学)で学んでます。

将軍様、あなたのために映画を撮ります

原題 The Lovers and The Despot(恋人と独裁者)
2016年/イギリス/97分/2016年9月23日公開(イギリス)
2016年9月24日公開(日本) http://www.shouguneiga.ayapro.ne.jp

監督 ロス・アダム(Ross Adam)、ロバート・カンナン(Robert Cannan)

2017年2月13日

楽しい私の家


 セジョン(ソン・ヨウン)は夫のソンミン(イ・サンヨプ)と幸福に暮らしている。実はソンミンはセジョンの作り上げたサイボーグ。セジョンにとって理想の夫なのだ。ところがある日、ソンミンの前にジア(パク・ハナ)が現れ、「思い出して!」と訴える。セジョンはジアが現れたことを知って動揺。ついにジアが家に押しかけてくると、セジョンは事故に遭って記憶喪失となったソンミンを看病するうちに愛しあうようになったのだと言い張るが……。

 星新一のショートショートにありそうな、ブラックなユーモアで妙な後味の残るサスペンスでした。さすがにサイボーグという設定の描写には甘いところがありますが。
 主演のソン・ヨウンは「明日に向かってハイキック」でジフン(チェ・ダニエル)の見合い相手という役でした。短編だからというのもあるでしょうが、メインキャストを担うようになったんですねぇ。ジア役のパク・ハナは「白夜姫」でヒロインに大抜擢されましたけど(急な代役だったとか)、「金よ出てこい☆コンコン」では宝石店のキム代理、「ミス・コリア」ではドリーム百貨店のエレベータガールという、ほとんど端役でした。短編ドラマって、脇役マニアにはたまらないキャスティングで楽しいものです。
 主題歌の"I Will"をうたうのはJelly Cookieのソオ(서오)。「ドクターズ~恋する気持ち」のOSTにも参加してるようです。Jelly Cookieは女性デュオで「匂いを見る少女」のOSTで1曲うたってますが、メンバーはチョ・ウネ(조은애)とイ・ソヨン(이서영)。ソオというのは名前の近いイ・ソヨンのソロ名義になるんでしょうか。韓国でも「あまりに情報がない」と嘆かれてるようで、詳細不明。この曲も音源リリースはありません。


2017年2月12日

最終兵器 ムスダン

韓国と北朝鮮の国境に位置するDMZ(非武装地帯)の603セクターで部隊の失踪事件が発生。24時間以内に事態を把握するよう、チョ大尉(キム・ミンジュン)をはじめ、生化学兵器に詳しいシン中尉(イ・ジア)ら精鋭が集められた。ところが特任チームの作戦開始早々、ハン中士(キム・サグォン)の姿が消える。不穏な空気が漂うなか部隊が廃倉庫に辿り着くと、そこには北朝鮮軍が待ちかまえていた。しかし、本当の脅威は別にあり……。

 冒頭は『プレデター』を思わせる描写ではじまり、次々と兵士を襲う謎の存在が示唆されます。一人称視点の主観ショットが緊迫感を煽りますが、終盤、正体を現したときには……ずいぶんチープで、ある意味、衝撃的なのでした。
 ターゲットの始末を優先するチーム長のチョ大尉は何かを隠しているようで、一方のシン中尉も別の任務が与えられている模様。そしてまたチームの末っ子で19日後の除隊を待ち望んでいるノ兵長(キム・ドンヨン)も密かに何かを命じられていて……とサスペンスフル。
 タイトルの「ムスダン」は北朝鮮の開発した中距離弾道ミサイルの呼称で、発射基地があるとされている舞水端(ムスダン)の地名から。なのですが、ということは、この作品のストーリー上はそういうミサイルは存在していないということになりますね。ミサイルではない、ある“兵器”のコードネームなわけですから。
 B級映画をおもしろがれるかどうかが評価の分かれ目でしょう。キム・ミンジュン、元Click-Bのオ・ジョンヒョク、ユチョンの弟のパク・ユファンと女性ファンに目配せをしたキャスティングですが、いかにも低予算な印象。イ・ジアもなぜひさびさの映画にこれを選んだのか……。とはいえ、予想できる展開ではあるものの、シン中尉のアップになるラストショットはゾッとします。

2017年2月11日

真夏の夢


 マンシク(キム・ヒウォン)は男手ひとつで育てている娘のイェナ(キム・ボミン)の出生届を出すのが唯一の願い。ベトナム人女性と国際結婚でついに夢が叶うと思ったが、直前に断られてしまった。そんなある日、暴力を振るわれていた茶房嬢のミヒ(キム・ガウン)を助ける。ミヒが礼を言いに家を訪ねてくると、イェナは彼女を母親と思い込み、泣きながらしがみつく。マンシクは2000万ウォンで母親代わりを頼み、ミヒは金目当てで婚姻届と出生届にサインをするが……。

 ちょっと前までは悪役の多かったキム・ヒウォンが、いい人すぎるマンシク役を好演。ほんと、おひとよし。キム・ガウンも、やさぐれてはいるものの根に寂しさを抱えるミヒ役をうまく演じてますね。ミン・ドゥルレとは大違いですが(「一途なタンポポちゃん」で健気な主人公を演じてました)。
 脚本は2014年の脚本公募で入選したソン・セリン。オチの想像はつくものの、やさしさにあふれたハートウォーミングな一編でした。
 劇中に流れるのは자전거 탄 풍경(自転車に乗った風景)の"지금처럼 너와 같이"。映画『ラブストーリー』の主題歌「あなたにとって私は、僕にとって君は」で知られる3人組です。ジャタンプンという略称で日本でもリリースしてました。分裂しましたが、2011年に再結成してたんですね。

2017年2月8日

伝説のシャトル


釜山の明成高校にソウルからチャン(イ・ジフン)が転校してきた。彼は17人相手の喧嘩に勝利したという伝説の男。学校を仕切るテウン(ソ・ジフン)にも一目を置かれる存在となるが、ある日、クラスにもうひとりの生徒が転校してくる。そのジェウ(キム・ジヌ)はチャンと同じ高校からやって来たという。チャンはある理由から気が気じゃない……。

 チャンの態度から、ある程度の展開は読めるのですが、とにかく笑いっぱなし。そもそも“加里峰のスリッパ”というニックネームがよくわかりません(笑)。去勢を張ってるのがバレないよう、あの手この手でテウンを言いくるめる姿が滑稽です。ジェウが現れると彼のあわてぶりはますますエスカレート。ジェウがクールなだけに余計おかしいのでした。
 ミンス役の子がSPEEDのソンミンに似てるなぁと思ってたら、まさにそう。いつもおどおどしてる風采の上がらないパシリですが、眼鏡をとると美少年。やっぱりソンミンなのでした。
 特別出演陣も豪華で笑わせてくれます。担任教師役のユ・オソンの台詞が『友へ チング』(言わずと知れた彼の出世作にして名作)のパロディなのがウケます。「ハワイに行けば~」もそうですし、その後の「마이 묵었다. 아이가」はまったくそのまんまですね。日本語字幕には活かされてませんでしたが……。アナウンサー志望のチャンの叔父がチョン・ヒョンムというのにも爆笑(かつて局アナでした)。「テレビに出られる顔だと思ってるの?」となんて言われたりして。
 タイトルにある「シャトル」とは「パシリ」のこと。韓国で大人気だったオンラインゲーム「スタークラフト」の宇宙輸送船「シャトル」から来てるんだとか。KBS WORLDでは「伝説のシャトル(使い走り)」という括弧付きの邦題ですが、劇中の日本語字幕は「パシリ」。俗語をタイトルに入れることに抵抗があったんでしょうか。「伝説のパシリ」でいいのに。